【寄稿】MaaSモデルから見るこれからの #GaaS (永田右京)

寄稿

 2014年に概説された「MaaS」(Mobility as a Service)は、今や世界のaaS系モデルにおける先駆けとも言える存在となっている。故に、このモデルを統治機構へと導入する、具体的にはGovernment as a Service(GaaS)の勃興も、自然なことと言える。「Government as a Service(#GaaS)を目指せ:これからの統治機構とは」(以下「栗本の論考」) において栗本は、「(国・地方を問わず)政府は「統治者」として君臨するのではなく、社会の持続的発展に向けた”黒子”に徹する」ことを将来の統治像として提案し、そこにデータ公開や安全保障、などの公共インフラ整備を行う形態を提案している。

加えて、グローバリゼーションの発展を踏まえ、・データプラットフォーマーとしての政府・「ユーザーフレンドリーな政府」とし、流動的に施策を展開する主体へと昇華させるべきと提唱する。こうしたシステム展開について、今回はMaaSの先進事例であるWHIMを参考に、このシステムの行く末を考えてみたい。

ヘルシンキの先進事例:WHIMを考察する

 aaS系ビジネスモデルを語る上で、ヘルシンキを拠点とするMaaS Global社と、それによって運営されるWHIMというサービスの存在を欠くことはできない。本サービスが生まれた背景には、学官連携事業の結果として、ブロードキャスト型の交通システム集配サービスが提案された論文「Mobility as a Service – A Proposal for Action for the Public Administration Case Helsinki [1]」がある。

 この中で著者のSonja Heikkilä氏は、通信業界モデルについて高く評価し、そのモデルを交通へ導入することを提案した。具体的には、一つのプラットフォームを軸に様々なサービスを、パッケージ化して提供する。しかしそれぞれのサービスは、既存のものを活用する形で設計する。このように、「交通の組み合わせ」という煩雑な作業に関してアクセシビリティを担保することで、個々人で動かせる交通としての自動車からシフトさせる戦略を描いた。最終的には2025年の段階で、自家用車なし、公共交通のみで移動を快適にすることを目標としている。 MaaS Global社はこの路線に則り、「clearinghouse(集配所)」としてのサービスを中心に展開する。

このサービス展開により交通への入り口、ユーザーインターフェース(UI)がアプリのみとなり、今まで利用されてこなかったサービスへのシフトも促せるとしている。WHIMアプリの現状についてまとめたレポート[2]によれば、公共交通の利用率が非WHIMユーザーより大きいこと、タクシーの利用回数が非WHIMユーザーの3倍あることなどが紹介されている。一方で、彼らの居住地が公共交通の周辺に集中していること(66%)、行動範囲が公共交通の周辺にある程度限定され、市で貸し出される自転車やタクシーなどの利用時間は短いと報告されている。以前のデータが公表されている訳では無いため注意が必要だが、アプリユーザーと非ユーザーの間で行動に差が生まれている事実には注目する必要がある。

WHIMの画面

 このように多様な主体が協働し、社会を維持するシステムの実現には、協働しやすい環境の構築こそが重要である。aaSのモデルは主に、インターネットのモデルを参考に組み立てられていて、その理由はイニシャルモデルであるMaaSの歴史的背景による。つまり、政府にそのモデルを導入するのであれば、政府という一つのUIが様々なサービスをまとめると共に、多種の事業体へと分配しやすいシステムとする必要がある。これにより、同じ機能を提供できる事業体が入れ替わる可能性を担保し持続性を高められる、また新たな事業を浸透させやすいのが強みである。これらの点で、aaSモデルは強靭で、壊れにくく、可塑性の高いモデルなのである。このような体系から、aaS系モデルはコンセッション方式、PFI法系統と強いつながりがあるのはいうまでもない。一方で、事業体が抜け落ちたのち、埋まるまでには時間がかかることには、一定の注意を払う必要がある[3]。

aaSの社会実装に向けた課題と展望

 WHIMの考察をまとめると、aaSにおいて、必要となるのは次の4点である。・複数の事業者へ複数のサービスを委嘱できる環境、サポート制度の構築・基礎インフラの構築・投資・UIの整備によるUX(利用者体験)の向上 この3点は、まさにインターネットにおいて行われたものである。例えばインターネットの自動処理構造は、TCP-IPやOSI参照モデルといった構造によって標準化され、そのほかプロトコルの設定によって事業者が参入できる体制が整えられた。これに基づき、基礎インフラとなるケーブル、衛星通信網などが整えられ、事業者がそのシステムにただ乗り(フリーライド)することを前提として彼らの事業を組み立てられるようになった[4]。

 また様々なコンテンツをまとめるものとして、HTMLやunity、Pythonやrubyなどのプログラムツール、ブラウザをはじめとしたUIに深く関わるシステムが整えられ、サービスが広く利用されるようになった。このようにaaSのコンセプトに合ったプロトコル、基礎インフラ、投資、UIの整備の4点がaaSにおいて必須であり、これはGaaSにおいても同じであると私は考える。

複数の事業者へ複数のサービスを委嘱できる環境、サポート制度の構築 

GaaSを導入するためにはまず、既存のサービスを分割し、どのような構造になっているかを把握した上で、それをデータに起こす必要がある。これは、施策の6W1H (When, Where, Who, Whom, What, Why, How)を明らかにし、自動化してアルゴリズムで判断できるようにするためである。結果としてさらに、それぞれの施策の目的や手法などが定義されるため、事業者へと委嘱する体制も整えられる。 

 ただ、社会の要請が変われば政策も変化してしかるべきであり、それを感じ取るのは委嘱先の事業者でもある。故に、彼らとの接触、情報交換を図る必要性は高い。サービス展開に際しては、小さな/大きな政府論を超えるべきであり、協働できるホットラインの構築は欠かせないだろう。これが「ファシリテーター」機能であり、特有であるBtoB(事業者間)の協力体制を構築するものである。aaS特有の可塑性を加速させる機能を付与することで、GaaSにおいて求められる「流動的に政策を展開する主体」としての政府の機能が、さらに保証される。

基礎インフラの構築 

 GaaSを利用しやすくするため、政府には法体系、データベースといった基礎インフラの構築が求められる。特にデータについての整備が求められていくというのは栗本の言にもある通りである。何故ならば、行政サービスの組み合わせ提供するのであれば、市民(サービス利用者)の現状に合わせねばならないからである。具体的には、学生でもないのに学生の控除システムを提案したところで、利用者は何の益も得ないわけである。この精度によってユーザーフレンドリー性を高めるため、データ収集とプライバシーの保護には、より一層気を配る必要があるだろう。また栗本の論考にあるように、鍵ペア付きのマイナンバーカードの配布が進んでいない現状にも、テコ入れは必須と思われる。 

 加えてサービスとして成り立ちにくい、社会保障や教育、安全保障といったセーフティーネット分野に関しては、政府が積極的に担う必要がある。これはMaaSにも通じるところがあり、例えば福岡県で運用されているMy routeも、利用している道路は政府系の管轄にならざるを得ない。つまりGaaSでは、例えば福祉システムに、「安全」という状態に、利用者がフリーライドする体制が必要なのである。政府は既存の税金、社会保険料などの資金徴収を利用する形で、これらの費用を回収せねばならない。人口が流動化する現代において、これは他国との競争であり、故にUI、UXが重要となってくる。

投資 

 サービスの発展には何が必要であろうか?常日頃SFCという環境にいる私は「イノベーション」という単語を耳にタコができるほど聞いているが、MaaS事業者にとってもそれは同じであった。例えばUberはチケット統合サービスを運営する一種のMaaS事業者となりつつあるが、彼らは「空飛ぶタクシー」の開発に力を入れ、2020年代には実証飛行を行うとしている。WHIMにおいても、MaaS Global社と協業するヘルシンキ市は都市計画にMaaSを組み込み、年集約への投資を行なっている。このように、成長分野への投資はaaS系企業にとって重要であり、それが利益を生むかわからなくても行われるものである。将来的に、その分野が自らを養うものになる可能性があるからで、例えばヘルシンキは居住者の増加、Uberは利用者の増加を目論んでいるのではないだろうか。 故に、aaSプラットフォーマーは、自らを支えるべく、成長分野への投資を行わねばならない。

 新興分野は初期に利益を生みにくく(通常のビジネスなら2年、ソーシャルビジネスでは7年程度ではないか)、企業は参入できない場合もある。このような分野に関して政府は格好の投資主体となりうるし、時間軸が進むほど産業が第三次化し盛衰のサイクルが早まる傾向を考えれば、投資は必須と言えるだろう。

UIの整備によるUXの向上 

インターネットが「インターネット前提社会」を目指すように、「GaaS前提社会」を考えるのであれば、広範の市民への普及は必須要件である。故に、制度の違いによりサービスを受けられない問題を避けるために、GaaSを前提とした施策への移行を促す(ナッジする)必要がある。手続きの便利さ、行政との身近さを考えた時に、UIは重要である。後述するが現在の行政サービスには、複雑で煩雑なものも多い。これを改善することで、GaaSの利用効率を高めることが肝要である。 

私がGaaSによって期待する機能の一つに、既存の複雑で条件がバラバラな行政手続きを1クリックで済ませられるというものがある。これは自分の現状を鑑みて、最適と思われる処方箋を、MaaSプラットフォームによって提示するものである。 年末調整を例にとってみると、控除の種類としては年末調整時と年末調整後の2種類に分類でき、それぞれが状況に合わせて細分化され、結果として14種類にもなるという。いわゆる「まとめサイト」として記述される例も少なくないが、これでは決してユーザーフレンドリーな政府とはいえないだろう。

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結局、手続きが煩雑なのである。これについて、政府がプラットフォームを作って、控除申請がしやすくするなどのサービス展開はどうだろうか。種々のサービスについて、「組み合わせ」や利用しづらいシステムへのアクセスがしやすくなれば、WHIMのように既存のサービスをより利用するようになる可能性がある。

GaaSの行く末

行政サービスのシステム化、明確化による液体民主主義の発展に向けて ここまで、MaaSの要素を政府へと取り込む、GaaSの設計図について考えてきた。GaaSは既存の行政サービスを切り分け再構成しつつ、使いやすいように「黒子」がマネジメントするものである。私はこのコンセプトについて、多様な主体が政府の意思決定に参加できる「液体民主主義」につながる文脈にあると捉えている。液体民主主義のコンセプトについては栗本の別の論考に詳しいが、主権者が分け隔てなく参加できるように、テクノロジーを使って参加障壁を下げるものである。

MaaSの結果としても、先に述べたようにサービス利用者と非サービス利用者では意識に差が生じている。市民に受け入れられやすく、持続性の高いGaaS構築によって政府への関心が高まり、政府と市民の関係が二項対立ではなく融合していくこと、これをさらに期待したいと思う。


  • [1]Mobility as a Service – A Proposal for Action for the Public Administration Case Helsinki, Sonja Heikkilä, 2014
  • [2]WHIMPACT Insights from the world’s first Mobility-as-a-Service (MaaS) system, Ramboll, 2019
  • [3]イギリスの空港経営~民営化と地域との関係~ 冨樫 2014年
  • [4]インターネットの基礎: 情報革命を支えるインフラストラクチャー 村井 2014年

筆者プロフィール
永田右京(ながた・うきょう)
2000年生まれ、慶應義塾大学総合政策学部在学。持続可能な交通システム構築をテーマに、物理的インフラから安全かつ効率的な意思決定システムまで幅広く検討。他の執筆では、noteのマガジン(https://note.mu/ukyonagata/m/m10525064d707)にて映画「天気の子」における社会包摂について考察。

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