【過去の寄稿紹介】18歳選挙権と生徒会 まずは生徒会から始めよう(2018.03)

執筆記事紹介

NPO法人カタリバなどが進める『ルールメイカー育成事業』がメディア等で取り上げられる機会が増えてきました。私自身は学校内民主主義、などのコンセプトからは距離が遠くなりましたが、今日たまたま出身高校の後輩からお尋ねをいただき、過去資料を発掘していた際に、過去の拙文を見つけたので、共有します。

当時は、学校内民主主義と生徒会、というと「絵空事」「それよりもより具体的な政治課題を扱うべき」「あまり主権者意識の涵養には意味がないのでは」「日本国内の生徒会は子どもの権利条約における意見表明権からは距離がある(から、触れるべきではない)」というご意見もいただいていたことをふと思い出しました。時代は変わるものですね(苦笑)

本文章は、某新聞社に寄稿したコラムです。文中の立場や主張は当時(2018年3月段階)のものになりますことをご了承ください。


2015年6月に改正公職選挙法が成立し、選挙権が付与される年齢が20歳から18歳に引き下げられてから3年が経とうとしている。この「18歳選挙権」の流れを受け、高校生や大学生の”主権者に求められる力の養成”を目的とした主権者教育が開始された。本コラムは18歳選挙権や主権者教育の現状に関して、当事者の立場からそれらの現状を明らかにすると同時に、主権者教育のより一層の拡充が求められている中でも置き去りにされている「生徒会活動」に関して、問題提起を行うことを目的として執筆されたものである。

(1) 18歳選挙権成立以降の高校生の政治や選挙への関心の変化とは

本項では、18歳選挙権の成立が高校生の政治や選挙への関心にどのような影響を与えたかということに関して記述を行っていく。

・そもそも18歳選挙権はなぜ成立したのか

2015年6月の公職選挙法改正の直接的なきっかけは2007年に成立した『日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)』にある。国民投票法本則において、国民投票の投票年齢は18歳以上と定められた。一方で同法の附則においては”選挙権年齢が引き下げられるまでは暫定的に国民投票の投票年齢も20歳とする”そして”本法の成立後に国会において選挙権年齢引き下げに関する審議を迅速に行う”旨が明記された。この附則は民主党(当時)の強い要求によって盛り込まれたものであった。(民主党は2004年にも成人年齢や選挙権年齢を引き下げる法案を提出している)

この国民投票法の附則を根拠に国会において審議が進められた結果、2015年6月に公職選挙法が改正され、選挙権年齢が2歳引き下げられた。これは1945年に選挙権年齢が25歳から20歳への引き下げから70年ぶりの引き下げであったことは明らかにしておきたい。

・18歳選挙権成立後の若者の政治的関心の動向は

残念ではあるが、18歳選挙権の成立によって若者層(特に18歳・19歳層)の政治的関心が向上したとは考え難い。政治的関心は一概に数字では表すことは出来ないが、ここでは一つの指標として投票率を用いて検討を行いたい。先般の衆院選の18歳・19歳の投票率を見ても○○.○○%(総務省・中央選挙管理委員会)であり、18歳選挙権成立後初の国政選挙であった参院選での投票率○○%よりも下落している。初回の選挙ではある程度の興味を持って投票した当時18歳の層が、その後の衆院選における投票率が下がったというデータを考慮しても、18歳選挙権は瞬間的なブームで終わり、持続的な政治的関心の向上にはつながっていないと考えることが出来るだろう。

ただ、18歳・19歳層の投票率が50%を割るという低水準である一方で、この投票率は20代・30代のものよりも高い数値であること、そしてこの低水準は決して若者世代のみに起因するものではなく、日本の政治システムを維持・発展させてゆくためにも社会全体で取り組んでいかねばならない課題であるということは強調しておきたい。

(2)若者(高校生)の政治に参加する意識を高めるには高校時代あるいは高校生になるまでにどのような経験が必要と考えるか

そもそも、若者が政治への関心を高める為に必要な経験とは何であろうか。

一般的に政治とは国レベル・地方自治体レベルで行われるものであるという様に考えられている。一方で、広義の意味における政治とは「限られたリソースを如何に配分するか」という命題と密接に関係するものである。例えば、中学校時代のことを思い出して欲しい。クラス別で演劇をすることとなり、演ずる劇を何にしようかと各クラスで話し合いを行った、そんな経験がある方も少なくはないだろう。一見政治とは程遠そうな話題だが、実際には限られた”クラス全体での練習時間”や”衣装代などの予算”をどのように使うかを考えることであるとするならば、”政治”的な要素も大いにあると言うことが出来る。

この具体例をもう少し細かく見てみよう。クラスごとの話し合いを行うプロセスは次の4つに大分できる。

  1. 各々が個人の意見を発表: 例) 「私は○○という劇をやりたい」「僕はこれが良い」
  2. 異なる意見を持つ者が対話:例) 「この劇は面白そうだけれども、キャストの人数とこのクラスの人数があっていないよね」
  3. 「妥協」の形成・合意  :例) 「じゃあ、今回はこの劇をベースにやるけれども、この部分は少し変えようか」
  4. 具体的な行動:      例) 「衣装は○○さんが作ろう」「台本の潤色は○○さんがやろう」

勿論、実際の国政・地方自治共に間接民主制をとっているため、主権者自身が以上の行動を取りうる素質を備えることは非常に重要であると言えるだろう。

実際にこれらの経験を積むためには、勿論学校外で様々な活動に取り組むという選択肢もあるが、学校内で”ホームルーム”を機能させたり、生徒会活動を着実にこなしたり、といったことに取り組むと良いと考える。これらの活動が有名無実化している学校も相当数あることは容易に想像ができる一方で、(少なくとも大半の学校で)制度上は存在をしているものである。だからこそ、教職員の方々にとっても、生徒にとっても、全く新しい主権者教育を学校内で実施しようとするよりは、既存の制度である生徒会活動を活用した主権者教育こそ受け入れやすいものとなるのではないだろうか。

(3)関連して、学校での生徒会活動や、全国高校生徒会大会など他校の生徒会役員との情報交換・意見交換を通して感じる高校の生徒会活動の課題

前項で、生徒会活動を主権者教育として活用していくことを提案した一方で、私自身がこれまで様々な形で生徒会活動に携わる中で見えている現状での課題も多く存在する。

第一に「生徒会活動の意義に関する教職員・生徒双方の理解が浸透していない」ことが挙げられる。一般的に生徒が生徒会活動の存在を知ることとなるのは、学校入学後に「偶然目にしたこと」がきっかけであろう。つまりは、何らかの授業内で”生徒会活動の意義”に関して触れられることがほぼないという事である。部活動などであれば、(それが本質的な目標とは考え難いが)何らかの大会に出場する、何かしらの作品を作る、などといった具体的な目標が(顧問・生徒の双方にとって)設定をし易い。しかし、生徒会活動においては、何か計量可能な成果と言うものを出し難いものであるため、生徒がその存在の価値を理解していない限り、その活動は軽視されやすい。

第二に「生徒会活動の良い事例が十分に共有される場が多く存在しない」ことがあるだろう。私はこれまで全国の生徒会役員有志によるコンソーシアムである「全国高校生徒会大会」( https://nscc-official.com) や、神奈川県の生徒会に関するコンソーシアムである「神奈川県高校生徒会会議」の運営に携わって来た。これらの中においてはそれなりに事例共有というものは行われていたものの、参加校の偏りが非常に大きいという課題があった。生徒会に関しては日本国内で最大規模である全国高校生徒会大会にしても、これまで過去5回の延べ参加校数は200校前後であり、全国の高校を網羅しているとは言い難い現状がある。

これらの課題に関しては、私自身も文部科学省や全国高等学校校長協会に提言を発出した。(https://seitokai.jp/archives/1583) また、その他にも様々な形での解決が模索されているものの、現状で最良の方策は見つかっていない。だからこそまずは、今生徒会活動に関わっている生徒一人ひとりが生徒会活動に真摯に取り組んでいく必要があると感じている。

(4)課題をクリアした理想の生徒会活動とはどのようなものか、その実現には、生徒、先生(各高校)、行政レベルでどのようなことが必要か

つい先日、私は若者の政治参画の先進地域とされる北欧のスウェーデンを訪れ、現地で生徒会活動に携わる若者と直接インタビューや議論をする機会を得た。先進地域とされているだけあって、例えば生徒会に各自治体から予算が配分される、生徒会に携わる現役の高校生に対する研修制度が充実しているなど、様々な具体的事例が存在していた。

但し、その中でもひときわ印象的であったのは、生徒会活動に携わる若者の”思い”であった。スウェーデンのSveriges Elevkår (全国生徒会:各地の生徒会の連合体であると同時に、各生徒会に対するコンサルティングなども行う組織)代表のリナさんが「生徒会は生徒にとって公益たる場であり、そして一人ひとりの高校生が社会を変えていく必要性を実現出来る場だ」と述べていたように、生徒会が生徒にとっての利益を産む場所となる様に、生徒会役員が行動をする。その上で生徒会が学校内に存在する生徒の代表として真の意味で機能する状態が理想であると言うことが出来るであろう。また、この状態の実現にあたっては、例えば特に生徒会顧問を対象にした研修を実施する、または生徒会に関する先進事例をまとめたガイドブックを作成するなど、様々な環境整備が欠かせない。そしてなにより、教育行政自体が生徒を単なる受動者として捉えるのではなく、生徒が所属する各コミュニティの構成員であるという認識に立つことが重要となることは間違いがない。

(5)最後に

これまで18歳選挙権や生徒会活動の現状、そして18歳選挙権時代における生徒会に関する考察を行ってきた。勿論、それぞれの部分において依然として問題は残っているが、若者の力がこれまで以上に求められる時代になっているということは想像に難くない。だからこそ、まずは「今、自分自身がいる教室がよりよい空間にならないか」と一歩立ち止まって見て欲しい。その時に得た気づきを行動に起こすことが出来れば、18歳選挙権時代を生きていくことができるのではないだろうか。


当時とは立場が変わりましたが、日本の民主主義の機能改善・アップデートに貢献する、という根本的な思いは変わらないと感じています。引き続き頑張ります。

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