【転載】スーパーシティ構想における住民参画と合意 – オンライン意思決定プラットフォームの重要性

寄稿

本記事は合同会社Liquitousが運営する『Lisearch Journal』に栗本が投稿した同タイトルの記事について、合同会社Liquitousの許可を得て転載するものです。本記事の利用は、合同会社Liquitousが定めたポリシーに準拠するものとします。

スーパーシティ構想における住民参画と合意  | Lisearch
Liquitousは「一人ひとりの影響力を発揮できる社会」を目指し、市民参加型合意形成プラットフォーム「Liqlid」開発・社会実装を一気通貫で行う「市民と行政の間のコミュニケーション・エージェント」です。神奈川県鎌倉市や柏の葉スマートシティなどで取り組みを進めています。

Lisearch Journalには、本ブログへ転載していないものも含めて、多数投稿しております。ご笑覧いただけますと幸いです。


はじめに

現在の日本は、急速な少子高齢化の進展、それに伴う人口減少や都市への一極集中など、課題が山積する国となった。地方部を含めた都市の利便性を向上させながら、現在よりも更に少ない人口で持続可能な経済成長を希求する社会への「構造転換」が迫られている。同時に、私たちが住む日本という国は、かつてテクノロジーの最先端を生み出す国として、世界から期待の眼差しを向けられていた。ただ、特に政治行政や公共の領域で最先端テクノロジーの実装はおろか、基礎的なテクノロジーの実装すら遅々として進んで来なかったという実態がある。結果、様々な社会課題の解決が、必ずしもスマート(=より効果的で、尚且つ効率的に)に実現されていない。

そもそもテクノロジーは、本来的には「人間社会が持つ知識を実装する方法論」を指す用語である。テクノロジーの発展が、人類社会にさらなる自由と繁栄をもたらすのか、あるいは災禍をもたらすのかというテーマは、これまでの人類史上脈々と議論され続けてきた。ただ、私たちの目の前にあるテクノロジーの隆盛はもはや目の背けようがない事実である。故に、人間社会が持つ知識を実装することで、課題を解決する社会へと「構造転換」を実現するために、社会的合意を形成しながら、テクノロジーの実装を進めることの必要性は指摘するまでもないだろう。

今日、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う「コロナショック」によって、フィジカル空間とサイバー空間が高度に融合するSociety5.0への移行が、従来の予想よりも早く進展すると想定されている。これにより、私たち一人ひとりもこの新しい社会像へ向けて、従来の発想を転換し、私たち一人ひとりが新しい社会の主体となる必要性が更に高まりつつあるとも考えられる。そこで本稿では、中期的に新しいまちの姿であるスーパーシティについて、特にスーパーシティの主体たる住民の合意形成の在り方について、私見を述べたい。

スーパーシティ法案の概要

背景

近年、テクノロジーを活用したスマートシティというコンセプトが注目を集める機会が以前にも増している。

2020年1月、トヨタは、傘下のトヨタ自動車東日本が所有する東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に、プライベートな実証都市である「Woven City」のと名付けたIoTの活用等を前提としたコネクテッド・シティの建設を行う計画を示した。北海道・札幌市は、2017年3月に札幌市ICT活用戦略を策定し、”データ活用によってイノベーションの創出につながる先進的、分野横断的な取組”を行うためのデータ連携基盤である「札幌市ICT活用プラットフォーム」を民間事業者等と協働して構築し、運用を行っている。同様の取り組みは、例えば香川県高松市の「スマートシティたかまつ」や福島県会津若松市の「スマートシティ会津若松」など、10以上の地域で既に存在・運営されている。これらは全て、広義のスマートシティに類される。スマートシティとは、より住みやすいまちを実現するために、官民の保有するデータやテクノロジーを活用するまちづくりの総称である、とも表現できるだろう。

その一方で、こうした各自治体における事例の取り組みにも課題が存在する。具体的には、既存の規制や法律の枠内で計画実施されている故に、事業分野や行政部局を超えた連携が必ずしも上手く実施されない、あるいは一時的な実証実験に留まり、より広範な実践や社会実装が進まないといった課題である。結果として、データやテクノロジーの利活用が部分的にしか実施されず、全体としてスマートな政策展開がなされていない自治体は少なくない。

こうした課題を克服し、「より良い住みやすいまち」の実現に欠かせないスマートな自治体を目指すためには、その法的基盤を整備する必要がある。その為に政府が提出した法案が、国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案(通称:スーパーシティ法案)である。この法律案は、去る5月26日に参議院本会議で自民・公明党や日本維新の会などの賛成多数で可決成立した。

法案の概要と評価

改めて法(案)の概要を確認したい。今般のスーパーシティ法案は、その正式名称からも明らかであるように、既存の国家戦略特別区域制度(以下: 国家戦略特区)を活用し、当該特区における、(データ連携基盤整備事業者による)国や自治体が保有するデータ提供の「求め」(28条の2及び3)と住民合意を前提とする包括的な規制の特例措置の実現(28条の4)を可能にするものである。先述した札幌市のプラットフォームの様に、自治体ごとのデータ連携基盤、いわば自治体や民間事業者等が共創するためのフィールドを設け、施策やプロジェクトが(その目的に照らして)より効果的で効果的に実施されることが期待される。

これにより、自治体や協力する民間事業者が、現在のスマートシティに類される取り組みよりも、より幅広く分野・事業領域を横断することが実現される。そして、データとテクノロジー活用を基に、当該特区の中期的にスーパーシティへの進化を促進することが可能となる。無論、今般の法(案)は各自治体が国家戦略特区に「手挙げ」をする場合に採用され得るコンセプトの1つに過ぎず、今後無条件に全ての自治体がスーパーシティ化する、ということではない。

データ連携基盤
スーパーシティ解説(内閣府国家戦略特区ホームページ)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html

データを活用したスマートなまちづくりを官民協働で進展し、先端技術を用いたプロジェクトを包括的な規制の特例措置によって実現する特区を設けることは、本稿の冒頭で述べた様に、現在よりも更に少ない人口で持続可能な経済成長を希求する社会への「構造転換」を図るステップとして欠かすことは出来ない。先端技術を社会に実装し検証を改良を繰り返すことが、イノベーションを創出し、社会の発展に資する。今の縮小局面に差し掛かりつつある日本のカンフル剤となり得る施策と評価できるだろう。

個人情報保護について

中国やシンガポールに代表される非・自由民主主義諸国が、その強権的な姿勢を背景に、テクノロジーの社会実装による未来都市の実現を急速に進めている。その中で、日本が日本なりのスーパーシティを実現する際に重要な視点は、人権と個人情報の保護であることは言うまでもない。そのためには透明性の確保が欠かせない。

日本においては、官民のデータ活用と個人情報保護に係る法的基盤として、前者については官民データ活用推進基本法、後者については特に個人情報を取り扱う民間事業者の監督に主眼を置いた、個人情報の保護に関する法律、行政機関の個人情報の取り扱いに焦点をあてた、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律などが存在する。データの活用と個人情報保護は、常にそのバランスが問われることとなる。日本の法制度では、官民データ法においても個人情報をはじめとする個人の権利権益の保護がより優先することが明確に謳われている(3条1項及び3項など)。これは、スーパーシティ構想においても同様であり、特に慎重を期すべきポイントであることは指摘しておきたい。

もちろん、現行の法制度にも課題が存在する。例えば、国・地方公共団体などの公的機関は、個人情報の取り扱いを第三者機関として監督する個人情報保護委員会の監督を受けないなど、そのガバナンスと公的機関と民間事業者の関係の非対称性には一定の懸念を持たざるを得ない。ただ現在、内閣官房において個人情報保護に係る法制の統合などが検討されているため、当面はそれを注視することが肝要であろう。

(個人情報保護法制に関して、『日本における個人情報に係る法制度検討-スーパーシティ法に関連した個人情報の議論を受けて』により詳細に記述。)

スーパーシティ法案の現政権における位置付け

安倍晋三内閣総理大臣を首班とする現政権は、社会とテクノロジーの新しい関係の構築に、これまでの歴代政権と比較すれば、積極的に取り組んでいると評価できるだろう。

2013年3月には、マイナンバー関連法案の成立を行い、デジタル・ガバメントの実現に欠かすことのできない1人1つのID制度を実現した。2013年に政府は、内閣法改正による内閣情報通信政策監(政府CIO)の法定設置と、国のIT戦略としての『世界最先端IT国家創造宣言』を策定し、2016年に制定された官民データ活用推進基本法を成立させた。これにより、2017年5月にはIT戦略が『世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画』へと改定、これに基づきデジタル・ガバメント推進方針が策定された。同宣言・基本計画は、2018年、2019年と改定がなされており、基本的な方向性が示されている。

行政におけるテクノロジーの利活用について示したデジタル・ガバメント推進方針には、次の一節がある。

これまでの行政のデジタル化においては、[中略] 従来のやり方をデジタルに置き換えるだけの、いわゆる「Digitization(デジタイゼーション)」に過ぎないものが多くあった。単に過去の延長線上で今の行政をデジタル化するのではなく、デジタル技術の活用に対する考え方を改め、デジタルを前提とした次の時代の新たな社会基盤を構築するという「Digitalization(デジタライゼーション)」の観点から取り組むことが必要である

デジタル・ガバメント実行計画 P.5 (https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/densei_jikkoukeikaku_20191220.pdf)

尚、ここで謳われるデジタライゼーションとは、デジタル活用を前提する新たな社会を構築することを指し示し、一般化しつつあるDX(デジタル・トランスフォーメーション)と限りなく等しい概念であると考えられる。この概念の呼称は問わずとも、冒頭に触れたSociety5.0に向けた「構造転換」にあたっては欠かすことができない。

一連の流れを俯瞰すれば、社会全体の「構造転換」を実現することを目的に、政府自体が、単なるデジタイゼーションではなく、デジタルトランスフォーメーション(≒デジタライゼーション)の発想に基づいたデジタル・ガバメント化を進めていると指摘できる。近年、政府が取り組んできた社会とテクノロジーの関係を模索の中で、(やや前のめりに)具体化されたコンセプトが、スーパーシティ構想であり、今般のスーパーシティ法(案)は、それに法的根拠を与えるものだろう。

スーパーシティにおける住民参画と合意

スーパーシティ構想における住民参画の重要性

筆者自身は、スーパーシティというコンセプトには概して肯定的な立場である。一方で、地域に係るデータを収集し、個人識別ができないように加工して利活用をするという発想は、デジタルネイティブ世代などにとっては「あたりまえ」であるかもしれないが、特に高齢者層にとっては必ずしも馴染みのない概念であると肯くこともできる。

スーパーシティ法(案)の形成過程と法案における住民参画の設計

先述した通り、今般成立したスーパーシティ法(案)は、既存の国家戦略特別区域法を改正するものである。つまり、スーパーシティの認定を受けるためには、既存の国家戦略特区と同様、国家戦略特区基本方針に基づき、政令改正によって区域が指定され、示された区域方針に基づいて、区域ごとに設置される区域会議で区域計画が検討・作成されるという手続きが存在する。

そもそも、国家戦略特区は、従来から存在した構造改革特区や総合特区といった、”地域の発意に基づくボトムアップ型の特区“(参考:国家戦略特別区域基本方針「国家戦略特区制度の目的・意義」より)による規制改革ではなく、国、特に内閣総理大臣の主導の下で、国と地域が連携を図りながら、国・地域・民間が一体となって取り組む規制改革の為のサンドボックスである。規制緩和の先にある”先端技術の実装”や経済成長の観点から、国が主導する意義は十分にあるだろう。

ただ、まちづくりの基本思想が従来のものと比較して大きく転換することとなる。だからこそ、単に「上から押し付ける」ことなく、国の主導と住民主権、言い換えればトップダウンとボトムアップのバランスを如何に設計するか、この視点を欠いては、スーパーシティに住まう住民の理解を得ることは不可能であろうし、日本の「構造転換」に向けたスーパーシティ構想そのものが頓挫する恐れすらある。

この視点は、今回のスーパーシティ法(案)の形成過程においても十分意識されていることを確認できる。例えば、スーパーシティ構想の具体的な方向性を示した『「スーパーシティ」構想の実現に向けて 最終報告』(2019年2月14日:「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会)では、スーパーシティの3要素として、①生活全般にまたがる ②未来社会の加速実現 ③住民参画が挙げられている。

③住民参画
●住民が参画し、住民目線でより良い未来社会の実現がなされるように、ネ
ットワークを最大限に利用する。
住民のコミュニティが中心となって、継続的に新しい取り組みがなされ、
改善が進められるような新しい住民参加モデルを目指す

(※太字は筆者)
「スーパーシティ」構想の実現に向けて 最終報告 P.2 – 「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会(2019年2月14日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/saisyu_houkoku.pdf

また、同報告においては、「スーパーシティ」実現に必要な法制度において、住民合意があることを重要視していることが窺える。同報告に付された『スーパーシティに関する国家戦略特区法改正(骨子) 暫定版』では、明確に関係地方公共団体の議会への付議・承認、加えて、住民合意を確認・確定する為の措置を講ずることをスーパーシティの基本構想を内閣総理大臣が認定する際の「要件」として定めるものとしている。

スーパーシティに関する特区法改正の考え方(「スーパーシティ」構想の実現に向けて 最終報告 別紙1) – 「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会(2019年2月14日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/saisyu_houkoku.pdf

4、「基本構想」の認定
● スーパーシティ区域会議は、スーパーシティの実施に係る基本構想(事業
計画の概要、規制の特例措置の概要など)の案を作成し、内閣総理大臣の認定
を申請する。
2 関係地方公共団体の長は、基本構想を議会に付議し、その承認を求める。
3 2の後、関係地方公共団体は、住民合意を確認・確定するための措置を講ずる。
4 内閣総理大臣は、議会承認及び住民合意などを要件として、基本構想を認定する。

(※太字は筆者)
スーパーシティに関する国家戦略特区法改正(骨子) 暫定版(「スーパーシティ」構想の実現に向けて 最終報告 別紙2) – 「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会(2019年2月14日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/saisyu_houkoku.pdf

しかし、こうした議会承認や住民合意といった要件は、結果としてスーパーシティ法(案)に具体的な条文として盛り込まれなかった。確かに、同法(案)では、スーパーシティに指定された区域で事業を展開する自治体や事業者が、規制の特例措置を求める際には、”区域の住民その他の利害関係者の意向を踏まえなければならない”と定められ(28条の4 第2項)、内閣府令で定められる『住民合意を証する書面』の提出が求められるとされている。

スーパーシティ解説(内閣府国家戦略特区ホームページ)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html

その一方で、具体的に『住民合意を証する書面』が何たるか、あるいは前述の最終報告に記載されていたような、いかに地方公共団体の議会が当該地域におけるスーパーシティ構想の開始に関与できるか、といった具体的な制度設計はなされなかった。首長と議会による二元代表制で成り立つ地方自治の本旨を考えれば、この点は残念である。そして、データを利活用したまちづくりに、住民が継続的に参加・参画していく意義などへの言及がなかったことも、住民参画によるスーパーシティの安定的な運用・発展を目指すという視点から、不足感を強く覚えることは否めない[1]。

WeGovNowプロジェクトと住民合意

ここまでに述べた様に、スーパーシティ構想そのものは、断続的にSociety5.0へ断続的に移行しつつある日本の「構造転換」に資する、有効な施策である。一方で、スーパーシティ構想を安定的に運用・発展には、住民参画を含む地方自治に係る視点を欠かすことができない。

では特に、データを利活用したまちづくりに、住民が継続的に参加・参画していくという仕組みはどのように実現することが可能なのだろうか?現在は、自治体の審議会等の委員公募、無作為に選ばれた住民がまちの課題を討議する「住民協議会」(政策シンクタンク「構想日本」が実施)や「プラーヌンクスツェレ」などが存在する。あるいはデータ連携基盤に提供されるデータを活用して、住民生活の利便性向上を図る自主的な活動を行うCode forなども知られている。

これらの取り組みは、全ての前提となる民主主義という視点からも意義深いものである。その一方で、物理的空間に集う必要や、要求される技術から、参加するできる人間が限定されるという課題がある。こうした課題をクリアする試みとして、海外では、オンライン・プラットフォームを活用することで、まちづくりに住民が参画するモデルが既に提案されている。

WeGovNowプロジェクトの概要

そのモデルが、WeGovNow Projectである。WeGovNow Projectは1つの研究プロジェクトであり、『WeGovernmentの実現に向けて:地域の政策課題に取り組むための、共同的で参画的なアプローチ(Towards WeGovernment: Collective and participative approaches for addressing local policy challenges)』をテーマとしていた。

同プロジェクトは、EUのEuropean Commission(欧州委員会)が実施する研究助成の枠組みであるHorizon2020に採択され[2]、2016年2月から2019年1月まで時限的に活動を行っていた。同プロジェクトは、ハイデルベルク大学やロンドン大学、トリノ大学といった研究機関のほか、イタリア・トリノ市、イタリア・サンドナディピアーヴェ市、ロンドン・サザーク特別区といった自治体、FGB財団やinfaliaといったIT企業によって構成され、いわば産学官協働で運営されていた。

そして、同プロジェクトはテーマの下に、地域において、行政や住民、市民社会や地域企業が連携して地域課題の解決を行う為のオンライン・ツールを統合したエコシステムの構築を目指した。言い換えれば、既存の請願や課題調査といった仕組みや、多様な主体が協働する際に役に立つツールを個別のソフトウェアとして開発しつつ、それらのソフトウェアが連携して動作する様に、1つのWeGovNowというプラットフォームに組み込むということになる。

ソフトウェア名目的
FirstLifeコミュニティにおける繋がりの形成と組織化
(community networking & self-organization)
Improve My City課題の特定と追跡
(problem identification & tracking)
LiquidFeedback民主的な命題の形成と意思決定
(democratic proposition development & decision making)
Community Maps知識とアイデアの共有
(crowed sourcing of knowledge & ideas)
Offers & Requestsボランティア機会や無料の物品の交換
(exchange of volunteering opportunity & free items)

これら5つのソフトウェアを1つのプラットフォーム上で連携させることで、地域の政策課題解決に向けて、現場の実践知、行政や民間企業が持つ専門知、そして住民が持つ常識知を相互に繋げることが実現される。物理的な空間では実現し得なかった「協働する価値の最大化」により、課題を解決する可能性を向上させる試みと評価できるだろう。

WeGovNowプロジェクトにおけるLiquidFeedbackの役割

では、このプラットフォーム上で「民主的な命題の形成と意思決定」という役割を与えられているLiquidfeedbackとは、どのようなソフトウェアなのだろうか。

LiquidFeedbackは、ドイツのInteraktive Demokratie(インタラクティブ民主主義協会)が開発・運営を行い、液体民主主義の概念に基づき、意思決定を行うためのソフトウェアである。これは、コミュニティの構成員が、そのソフトウェア上に設けられたコミュニティ用のスペースにユーザーとして参加し、自身あるいは他人が設定した議題について、議論を積み重ねながら、最終的に投票を行う機能を持つ。

『民主主義に基づいた意思決定プラットフォームの先行事例を探る』(https://liquitous.com/lisearch/journal/2020/04/13/95/)より

WeGovNowは、実際にイタリア・トリノ市、イタリア・サンドナディピアーヴェ市、ロンドン・サザーク特別区において、その実証実験が行われた。例えばその中でもトリノ市で行われたテストでは、市の非営利組織支援プログラム”AxTO: Actions for Turin’s Suburbs”を実施するにあたり、非営利組織に対して配分する予算額について、プラットフォームに参画するユーザーが投票して決定された。あるいは、Parco Dora地区の開発に際して、市の部局や博物館、公園、文化団体などが協働する際にもLiquidfeedbackを含むWeGovNowプラットフォームが活用され、様々なステークホルダーを巻き込みながら開発が進行された。

こうした事例を検討すれば、Liquidfeedbackは、ソフトウェアが統合されたオンライン上のプラットフォームであるWeGovNowの中で、参画する主体同士の利益を調整しつつ、コミュニティとしての意思決定を行うという重要な役割を果たしていると言えるのではないだろうか。

(Liquidfeedbackについては、筆者の『民主主義に基づいた意思決定プラットフォームの先行事例を探る – VoteIT, LiquidFeedback, Crowdpol』にも詳細を記載。)

住民合意を作る事ができるスキームの重要性

このLiquidfeedbackを含むWeGovNowプラットフォームの特徴として、その中に意思決定を行うソフトウェアが含まれているという点が挙げられるだろう。WeGovNow Projectそのものも、実験的な側面が強いことは、同プロジェクトがHorizon2020に採択されていたことからも明らかであろう。ただ、オンライン上でプラットフォームを構築する際に、そこに意思決定の機能を盛り込むという発想は、本来であれば極めて自然であると言えよう。

それは、オンライン上でシームレスな、従来の政策展開よりも早い時間軸で情報交換や政策の進展が進んでいるからこそ、従来の○年に一度といった時間軸を持つ「選挙」では、新しい時間軸に対応することが困難であるためである。もちろん、政策の計画実施の責任の所在を明確にする観点などから、従来の選挙の意義そのものを疑いこそしないものの、従来の選挙以外の新しい意思決定のための回路は欠かすことができないのではないか。

それは、データの利活用という、まちづくりの基本思想が従来のものと比較して大きく転換する、日本の「スーパーシティ構想」における、継続的な住民参画の在り方にも、大きな示唆を与える。日本でスーパーシティ構想を着実に実施していくにあたり、日本は日本なりのプラットフォーム構築の必要を図ることが急務であると筆者は考える。

液体民主主義の実装を目指すLiquitousとして – 終わりに

私たちLiquitousは、今回取り上げたLiquidfeedbackの様な、液体民主主義に基づいたオンラインの意思決定プラットフォーム『Liqlid』を目下開発している。

従来のコミュニケーションアプリは、単一の組織を基本単位とするものが多く、組織を越えたコミュニケーションを行うことに一定の困難さがあった。加えて、コミュニケーションを軸としている故に、コミュニティを経営する上で欠かすことができない「意思決定」には最適化されていなかった。そこでLiqlidは、意思決定に主眼を置くことで、既存のコミュニケーション・ソフトウェアとの棲み分けながら、組織の意思決定をオンラインで支援することを目指している。

今回、詳報したスーパーシティ構想の様に、社会のあり方が断続的に変化する中で、これからのまちづくりや地域のガバナンスの姿は如何なるものになるのか。私たちLiquitousとしても、その姿を正面から構想し、積極的に提案していきたい[3]。特に、スーパーシティ構想の具現化に際しては、継続的な住民参画のモデルとして、Liqlidを活用するモデルを示し、微力ながら、日本の構造転換に寄与していきたい。日本を構造転換するための一丁目一番地こそが、液体民主主義の社会実装を通した民主主義のDX(デジタル・トランスフォーメーション)だと確信している。


  • [1] こうした懸念点は、国会審議においても課題として提示され、参議院では地方創生及び消費者問題に関する特別委員会における採決に際して、15項目にわたる附帯決議が付された。
  • [2] WeGovNow Projectに付与された予算は最終的に€4.195.168,75(419万5168.75ユーロ)であり、日本円に換算すると6億円規模である。(参考: EU CORDIS https://cordis.europa.eu/project/id/693514 閲覧日: 2020年6月5日)
  • [3] 詳細は『政治分野における液体民主主義の構想:二回路制デモクラシーとコモンズ』( https://liquitous.com/lisearch/journal/2020/04/13/112/ )などを参考のこと

参考文献

  1. 『トヨタ、「コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表』(TOYOTA MOTOR CORPORATION, https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31170943.html 閲覧日: 2020年6月5日)
  2. 『●「札幌市 ICT 活用プラットフォーム DATA-SMART CITY SAPPORO」の開設について』(札幌市, https://www.city.sapporo.jp/city/mayor/interview/text/2017/20180123/documents/datasmartcitysapporo.pdf , 2018年)
  3. 『「スーパーシティ」整備 改正国家戦略特区法が成立』(NHK, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200527/k10012447081000.html , 閲覧日:2020年6月5日)
  4. 官民データ活用推進基本法(電子政府の総合窓口e-Gov, 官民データ活用推進基本法, https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=428AC1000000103 , 閲覧日: 2020年5月28日)
  5. 個人情報の保護に関する法律(電子政府の総合窓口e-Gov, 個人情報の保護に関する法律, https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000057 , 閲覧日: 2020年5月28日)
  6. 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(電子政府の総合窓口e-Gov, 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律, https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000058 , 閲覧日: 2020年5月28日)
  7. 個人情報保護制度見直しの進め方(案)について(内閣官房, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kojinjyoho_hogo/kentoukai/dai1/siryou1.pdf , 2020年3月9日)
  8. 『IT新戦略の概要-社会全体のデジタル化に向けて-』(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室, https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20190607/siryou8.pdf , 2019)
  9. 『デジタルガバメント 実行計画』(政府CIOポータル, https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/densei_jikkoukeikaku_20191220.pdf , 2019年)
  10. スーパーシティ解説(内閣府国家戦略特区ホームページ, https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html , 閲覧日:2020年6月6日)
  11. 『内閣・地方創生・消費者問題分野における主な政策課題― 独禁法特例、科学技術基本法、個人情報保護、 「スーパーシティ」、公益通報者保護ほか ―』(岩波祐子, 西村尚敏, 瀬戸山順一, 立法と調査 No.421, 2020)
  12. 『国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案に対する附帯決議』(参議院, https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/201/f432_052201.pdf , 2020年)
  13. About WeGovNow(WeGovNow https://wegovnow.eu/about.html , 閲覧日: 2020年6月5日)
  14. The WeGovNoe platform (WeGovNow  https://wegovnow.eu/outcomes/wegovnow-platform.html 閲覧日: 2020年6月5日)
  15. 『WeGovNow Local Validation Trial Report v.1』 (Patrizia Saroglia, Suley Muhidin, Giulio Antonini, Alberto Rudellat, Louise Francis, Lutz Kubitschke  https://wegovnow.eu/fileadmin/wegovnow/images/d2.5.pdf , 2018年 )

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