【寄稿】AIは「フロンティア」か:ゆーぐれな氏

この○○の片隅から

近年、「AI(Artificial Intelligence)」の導入が様々な分野で叫ばれるようになった。第3次AIブームである。ビジネスから教育、研究分野まで多岐にわたって「AI」にお熱なのだ。それに合わせるように「深層学習(Deep Learning)」、「機械学習(Machine Learning)」、「強化学習(Reinforce Learning)」など「それっぽい」用語も今や立派な「ビジネス用語」になってしまった。そのため、それらを飯ネタにしている私たちの間では、彼ら消費者からの「それっぽいIT」の需要はそもそも研究されるべき「ハイテク」または「フロンティア」なのか、それともただの開発業に研究者を堕としめるものなのかよく議論される。果たして「AI」はハイテクなのだろうか。

そもそもAIとは「人工的に」つくられた「知能」である。ただ、これがこの言葉の難しいところで「知能」という言葉には様々な解釈がある上に「そもそも知能とは……。」という議論も未だなされている状況だ。詰まる所、定義がないのである。あまりこういうのは好きではないのだが、広辞苑によると「①知能と才能②知性の程度③環境に適応し、新しい問題状況に対処する知的機能・能力」と表現されている。これらの候補の中では③が最もAIに用いられる「知能」の説明になるのかもしれない。つまり、人工知能とは生物が持つ「環境に適応し、新しい問題状況に対応する知的機能」を持つマシーンということになる。

先述の通り、現在は第3次AIブームである。つまりは、第1次・第2次ブームが過去にあったわけで、それについても解説していこう。
人工知能の始まりは、1956年のダートマス会議の提案書にある。この会議ではブレインストーミングの場で、2ヶ月の間ダートマス大学にて「今は人間にしか解けない問題を機械で解くこと」に関する議論がなされた。ここで話された内容は、今日の「コンピュータ」「自然言語処理」「ニューラルネットワーク」「計算理論」などなど様々な分野へを進化を遂げた。コンピュータの登場により、人間を超えるようなAIが誕生するのではないかと期待され、第1次AIブームが起こった。このブームでは「推論と探索」について様々な手法が考案され、アルゴリズムの分野が飛躍的に進歩した。パズルの解き方や、迷路のゴールまでの探索など様々アルゴリズムが考案されるなかで、人々は気づきはじめる。「これ、現実世界じゃ全く使いものにならなくない?」と。こうして、第1次AIブームは幕を閉じ、挙げ句の果てにはこの時期のAIを「トイプロブレム(おもちゃの問題)」とまで称されるようになってしまったのである。

1980年代になると、コンピュータが比較的企業に導入され、家庭にも普及してきた。この時期に考案されたAIが先ほど紹介した機械学習である。そのなかでも、特にこの時期特有だったのは「エキスパートシステム」というものだ。実は身近なところに今もある。それはExcelのオートフィルだ。この実装例があるように、一部の社会実装の試みは成功した。しかし、知識を教え込む作業が非常に煩雑であることや、社会に遍在する矛盾したルールへの対応ができないことから、第2次AIブームは消えていった。
ここで紹介したいのは「人工無脳」だ。知らない方が大半であろうが所謂「チャットボット」である。人工無脳とは人工知能に対してつくられた言葉だ。様々な状況へ有機的に対応することを目指す人工知能に対して、人工無脳は収集したキーワードを内部のデータペースとマッチングさせて応答を返すだけである。有名なものだとELISAというチャットボットだろうか。これについてSiriに聞くと都心伝説めいた発言をすることで一時期話題になった。現在では24時間対応の電話窓口やSNSサービスに実装されていたりする。ただしこれは人工知能ではないと釘を刺しておきたい。

閑話休題、これらの歴史を経て第3次AIブームになるわけだが、このブームでは第2次で流行った機械学習手法に大きな躍進が見られたことによってはじまる。深層学習と強化学習である。深層学習はディープニューラルネットワークと呼ばれるように、ニューラルネットワーク手法を用いた機械学習手法である。3層以上の構造の階層型ニューラルネットを持つ学習であり、これらは膨大なデータの必要性とその処理する計算量が問題であった。現代ではそれらを処理する性能向上はもちろんのこと、膨大なデータを用意することが可能になったことでそれらの問題を解決した。このブームは現在進行形であり、どのような形で収束するのかは神のみぞ知るというところである。

これらの歴史を知った上で、AIが「ハイテク」だと言えるだろうか。50年以上も前からあるただのmachineの設計手法である。だからこそ、AIという言葉を目にした時にはその中身が重要なのである。それを意識の高い人々が「これからの時代は人工知能だから!」とパッケージについて話しているのはとても滑稽ではないだろうか。「『これから』じゃない、それについては50年前からだ。」と。


プロフィール:ゆーぐれな( @Lyaphunov_Labo

博士前期課程の制御屋さん。YouTubeチャンネル「この○○の片隅から」コメンテーター

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