新城市の「若者議会」に関する考察

新城市の「若者議会」に関する考察 スウェーデンにおける若者の政策決定過程参画事例と比較して

1.はじめに

2015年6月に公職選挙法が改正され、選挙権年齢が従来の20歳から18歳へと引き下げられた。これは、日本の戦後史上初めての選挙権年齢引き下げであり、社会全般に影響をもたらした。

この引き下げは “政治的”な事柄と一定の距離を保ってきた学校教育の現場に、「如何に、政治的教養や主権者としての素養を育むか」という問いを突きつけることとなった。その答えの一つとして、総務省が主導する形で開始された主権者教育は、今日では全高等学校(若しくはそれに相当する教育機関)の9割以上で実際に実施されている。

また、「18歳選挙権」開始後初の国政選挙であった第24回参議院議員通常選挙(2016年7月実施:以下第24回参院選)における18 歳の投票率は 51.28%、19 歳の投票率は42.30%、18 歳・19 歳を合わせた 10 代の投票率は46.78%という結果となり、直前の国政選挙である第47回衆議院議員総選挙(2014年12月実施)における20代の投票率32.58%と比較しても高水準の数値であった。(1)

一方で、第24回参院選後に行われた第48回衆議院議員総選挙(2017年10月実施:以下第48回衆院選)における18歳・19歳の投票率は、18歳が47.87%、19歳が33.25%、18歳・19歳を合わせた10代の投票率は40.49%に留まった。特に、第24回参院選における18歳の投票率と第48回衆院選における19歳の投票率を比較した際に、(実施時期が異なるため、厳密な数字ではないものの)同年齢層の投票率が1年間で10%近く下落した(2)。この事実は、既存の主権者教育のある種の限界性を明らかにしていると指摘することが出来るだろう。

現状の主権者教育の限界性というものは、主に3つの観点から考えることが出来るだろう。第一に「学校教育の枠組み内で行う時間的な制約」、第二に「政治的なリアリティの欠如」、そして「“教育”カリキュラム内で行われるからこその生徒の主体性・能動性涵養という視点の欠落」、であると筆者は考えている。現状の主権者教育は、(一部の先進的な事例は存在するものの)、“政治的中立性”の問題や、副教材として配布・使用されている「私たちが拓く日本の未来」の内容的な問題から、主権者として必要と考えられる教養・素養の中でも「選挙に関する事柄」のみが着目され、いわば「選挙教育」の様相を呈していると指摘せざるを得ない(3)

また18歳への選挙権引き下げによって、主権者教育のみならず、「若者世代の政治的影響力の保持」について検討が進んだという事もできるだろう。急速に少子高齢化が進展する日本において、若者(0代・10代・20代)世代と高齢者(65歳以上)世代を比較した際に、その母数は後者が多い(4)ことから、高齢者を重視した政策決定が行われる傾向にあるとされ、この状態はシルバーデモクラシーと揶揄される。また、様々な政策決定過程の構成員の世代別構成を検討してみると、国政においては、現在の衆院議員の平均年齢は2017年10月段階で54.7歳、全議員数と比較した際の各世代の割合は60代が24.5%、70代が8.4%であった一方で、30代が7.1%に留まった(5)。この事から、国政の場においては20代の利益代表者は存在していないと指摘することも可能であろう。同時に、30代の利益代表者も、他の世代に比べて影響力が低いと推測することが出来る。地方議会においても、同様の傾向が現れていることは平成24年(2012年)全国町村議長会意識調査などからも明らかであり、「世代間の受益格差」が生まれ得る状態にある。そう言った文脈から、ある種の是正施策として意図的に若者を政策決定過程に参画させることは、世代間の平等性の観点から十分に検討されても良いのではないだろうか。

この状況下で筆者が注目している国内事例として愛知県・新城市の「若者議会」が挙げられる。新城市「若者議会」とは、市内在住・在学・在勤の若者(16歳~29歳)で構成される市長直下の諮問機関として、年額1000万円の配分される予算の使途を議論・決定することが出来るものである。換言すれば、地方自治体の首長や議会議員でない若者が政策決定過程に参画することができるという施策である。

筆者は、若者の政治参画の施策として「現在の主権者教育の限界性を克服する可能性」を秘めていると考えている。本稿では、まず、「若者議会」に関して現状と課題を検討する。その上で、若者の政治参画先進国と言われるスウェーデンにおける「若者の政治参画事例」と比較を行い、18歳選挙権時代において、地方自治体が取りうる「若者を政策決定過程に包摂する施策」、そしてその結果として考えられる「新しい形の主権者教育」に関して、検討を行っていきたい。

 

2.新城市「若者議会」の沿革と現状

改めて、新城市「若者議会」の現状を整理していきたい。

現新城市長の穂積亮次氏(以下、穂積市長)は、これまでに当選4回を数える。その中で、平成26年の3回目の市長選挙出馬にあたって、「若者政策」を掲げたことが、現在の「若者議会」誕生の契機となっている(6)。土肥(2015)によれば、当初は現在よりもプライベートな形で任意の高校生や大学生、市職員などで構成されるワーキンググループを設け、その中では分科会形式で若者に関する政策の議論を行っていたという。その中で、イギリスの各地方自治体に存在する「若者議会:Youth Parliament」を範とした新城市版若者議会の設置が議論され、実際に設置されることとなった。その議論の過程において、穂積市長自身の公約として「若者政策」を提示しているが故の「安定性に対する不安感」が若者たちによって示された。その打開策として、その議論に参加をしていた若者たちが素案をまとめ、市職員が細部の調整を行った「若者条例」、「若者議会条例」を議会で可決することで、法的安定性も一定程度担保した。

こうした経緯を辿って、平成27年度から設置された「若者議会」は、20名の委員からなる市長の諮問機関として、実際に配分される1000万円の予算を編成している。例えば、平成29年度の『第3期若者議会』は、20名の委員と市職員や公募されたメンターから成り立つ全体会議の直下に、「広報PRチーム」、「教育ブランディングチーム」など複数のチームを設置し、それぞれのチームごとにプロジェクトを一年間かけて立案、年度末に市長に答申を行った。この答申を受けた市長は、次年度の市政予算に、実際にこの予算案を市長提案として組み込んだ。

これまで述べてきた様に、新城市「若者議会」は、単なる「お飾り参画」、若しくは実効性の低い施策としてではなく、(その予算規模からも明らかである通り)一定程度の実効性を有していることが明らかであろう。その実効性の担保として、若者を“活用”している点が、日本全国の自治体などから注目を集め、2016年にはマニフェスト大賞「最優秀シチズンシップ推進賞」を受賞するなどしている。

 

3.新城市「若者議会」の考察

まず、新城市「若者議会」が有する特徴は、「若者に大きな裁量権を与えている」ことにあると言えるだろう。市の財政規模が240億円前後であるとは言え、1000万円規模の裁量権を若者に与えている点は、少なくとも、国内の他地域に於いては見られないものである(同様の事例として、山形県遊佐町の“少年議会”が挙げられるが、こちらの予算規模は数十万円規模と、非常に僅少である)。

また、若者の政策決定過程への参加を条例によって担保している点も、非常に先行事例の少ないものであろう。形式は若干異なるものの、東京都・小池百合子都知事の下で開かれていた「東京都未来ビジョン懇談会」のような、首長の私的諮問機関である限り、その開催であったり、その提言内容の有効性であったりは首長自身によってのみしか裏打ちされ得ない。そういったコンテクストにおいて、条例でこの様な諮問機関の在り方を明確にするということ、しかもその構成員が若者に限定されているということは、非常に特出した事例であると指摘できる。

これら2点の特徴を踏まえた上で、新城市「若者議会」に関して、(主権者)教育的な側面、そして若者の政策決定過程への参画の有効性の側面の双方から、考察を深めていく。

まず、前者に関して、新城市「若者議会」は、それに参加する若者に対して、大きく3つの教育的効果をもたらし得ると考える。まずに直接政策決定過程に携わる事による、「政治的リテラシーの向上」、そしてメンターとして関わる年長者と関わることによって得られる「社会的・道義的なモラルの定着」、加えて、地方行政に関する見識が深まることによる「地元への理解/帰属意識の萌芽」の三点である。第一に示した政治的リテラシーとは、ただ単に「選挙」などといったある意味で受動的な政治的行為のみならず、政策の立案、予算の配分などといった主体的・能動的な政治的行為に関する見識も十分に深まる(当然その前提として主体性・能動性が一定程度は伸長する)と考えられる。そして二点目に挙げた「社会的・道義的なモラル」に関しては、少なくとも高校生・大学生がこの枠組みに参加をする限りは、彼・彼女たちの日常的な生活と比較すれば、接触を持つ年長者の数は増加することは容易に想像出来る。結果として、(年長者の振る舞いをただ単に受容するか、若しくはいわば“反面教師”の様に扱うかの差異があるとは言え)彼・彼女たちの社会的・道義的モラルが、学内に留まった場合と比較して、向上すると考えられるだろう。三点目に関して、現在Uターン・Iターン施策や地方から都市部への人口流失抑止施策が多く取られているが、それらの根本的な要因の一つに「地方への理解不足」があることは容易に想像が可能である。ある一定の地元への帰属意識があれば、仮に居住地は都市圏へと移したとしても、積極的に地方の事柄に関与しようとするのではないだろうか。地方議会議員のなり手不足や消滅可能性都市といった課題が表出する中で、地方の持続可能性を可能な限り担保する為に、若者の地方への帰属意識を向上させる施策は肝要であるといえるだろう。これら3点のポイントは、第一章で述べた現状の「主権者教育における課題」を補填し得るものであると同時に、市民権教育(シティズンシップ教育)の分野において大きな示唆を与えたバーナード・クリックの“学校における民主主義とシチズンシップの教育(Education for citizenship and the teaching of democracy in schools)”の中で「シチズンシップを構成する3つの要素」として示された ①社会的道徳的責任 ②共同体への参加 ③政治的リテラシー と近しい(7)ものであることからも、その有効性が示されていると指摘出来る。

次に、新城市「若者議会」を若者の政策決定過程への参画の有効性という観点から検討してみたい。新城市議会は定数18名であるが、前回選挙の開票時の議員平均年齢は54.72歳、全議員数に対する議員の世代別割合は60代が44.44%、50代が33.33%、40代が11.1%、30代・20代がそれぞれ5.05%(いずれも小数点以下3桁を四捨五入して計算:総和が100にならない)であり(8)、世代別で見た際には、その偏りは明らかであると言えるだろう。そう言った意味合いに於いては、政策決定過程における世代別の影響力の差異を是正する目的で、若者を政策決定過程に参画させることは非常に有効であると言えるのではないだろうか。加えて、新城市「若者議会」がこれまで(平成29年度)まで通算3期にわたって市長に答申してきた内容に目を向けてみても、従来の施策には見られないような視点を盛り込んだ施策が答申されており、「若者の視点に基づいた施策の展開」もなされていると評価することが出来るだろう。

 

4.スウェーデンにおける若者協議会との比較

ここで、新城市「若者議会」の参考事例として、スウェーデンの若者協議会(Ungdomsfullmäktige)を取り上げたい。

筆者は、2018年2月12日~18日の日程で、スウェーデン・ストックホルムおよびヨーテボリを「若者の政治参画」事例の視察を目的として訪れた。その中で、最も象徴的であった事例が、Ungdomsfullmäktige(若者協議会:以下、UF)であった。

UFは、行政の財政的援助とアドバイザリーを受けながら、自立的な活動を行っている組織である。例えば、ヨーテボリにおけるUFは、ヨーテボリ市内を幾つかの地区に分け、それぞれの地区で民主的な選出プロセスを経た各地域の代表者(10代~20代前半)によって構成されている。UFのメンバーはワーキング・グループを組織し、各ワーキング・グループが個別具体的なプロジェクトに関する検討と実施を行っている。

また、この団体には年額にして300万円程度の予算が市(ヨーテボリ市)から支給され、その予算の編成権のみならず、執行権も有している。

これまでUFが行ってきた施策としては、例えば夏季休暇中の活動に携わる若者の交通無償化(交通カードの支給)や、市内におけるイベントの開催、市政100周年を迎える2021年に向けた「若者の声」をビジュアル的にまとめた本の作成・発行などが挙げられる。

そして、特徴的な点としては、市から財政補助を受けているにも関わらず、政党や政治家に対してもロビーイングを行っている点である。換言すれば、「ヨーテボリという街の10代の代表」として、様々な社会的アクターに対する働きかけを行うことが許容されている。

これまで述べてきたUFと新城市「若者協議会」を端的に比較すれば、その代表性(正当性)、社会的な扱われ方の2点が特に大きな差異となるであろう。少なくとも、UFに関わっている若者達に直接インタビューした限りは、そのモチベーションの在り方や、考え方は、日本の新城市「若者議会」に携わる若者達のそれと大差が無い様に感じた。一方で、その場の形成のされ方は、両者に大きな差がある。代表性(正当性)に関しては、UFが地区ごとの民主的プロセスを経た代表者によって構成されている一方で、新城市「若者議会」は、有志の集まりとなっている。前者の様な選出方法であれば、その組織は、特定地域の若者の声を一定程度「代表」していると見なすことができる。しかし、後者の形式であれば、その組織は「代表性」が低いものとなってしまう。結果として、その代表性の低さが“公益性の低さ”関連付けられ、新市長が就任した際などに新城市「若者議会」が停止されてしまう、若しくは予算が配分されなくなる可能性もある。

また、社会的な扱われ方に関しては、新城市「若者議会」がその目標を市長への答申としている、つまりは若者視点をもった施策案(予算案)を提示することまでが、「若者議会」の目的である一方で、UFは政党や政治家に対してもロビーイングを行い、同時に予算を自らで執行することで、若者(10代)の利益代表としての行動をとることが目的として許容されていると考えうる。この部分を検討すると、UFと新城市「若者議会」の双方が一見同様な活動をしている一方で、その両者の本質が異なっていると言わざるを得ないだろう。(この点にはどちらが優れている/劣っているという問題でない)

 

5.新城市「若者議会」の課題

それでは、最後に新城市「若者議会」が現在抱える課題と今後の方向性を示唆したい。

まず、第一の課題としては、前項で示した様に、その「代表性」を如何に確立するかという点であろう。少なくとも、現在の新城市「若者議会」は、有志の集まりに過ぎないことから、その(若者の中での)代表性は低い。この部分に関しては、何らかの方法で一定の代表性を担保するべきではないだろうか

また、「より多くの若者を包摂する」という観点を検討することも重要になるだろう。現在の新城市「若者議会」は有志の集まりであることから、意識のある層の若者が集っていると考えるべきであろう。教育的な観点、若者の政策決定過程への参画という観点からも、より多くの若者を包摂する策を検討することが求められていくことは間違いがないだろう。

これらの課題に加えて、新城市「若者議会」の様な事例を如何に全国的に普及させていくかということも課題になるだろう。少なくとも、第2章で述べた様に、教育的・若者の政策決定過程への参画の観点から検討すれば、(現在の若者議会が多少の課題を抱えているとは言え)全国各地の自治体で実施を検討していくべき施策ではないだろうか。

[参考文献]

(1)西野偉彦「18 歳選挙権における主権者教育の現状と課題―どのようにして「社会的意思決定」を学ぶのか―」(2016) 1P-2P

(2)総務省 「第48回衆議院議員総選挙18歳・19歳全数調査」/「第24回参議院議員通常選挙 全数調査」の比較

(3)原田謙介「主権者教育は政治・選挙を教えることではなく、自分の生活を見ること」 http://agora-web.jp/archives/2030416.html (2018年6月20日閲覧) 等を参考に

(4)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2015)

(5)時事通信社「【図解・政治】衆院選2017・当選者の平均年齢(2017年10月)」(2017) (2018年6月20日閲覧)

(6)土肥潤也「新城市の若者議会から考える国内における若者政策の発展」(2015) http://dohijun.com/post-1005/ (2018年6月19日閲覧)

(7)小玉重夫「クリックレポートとイギリスのシティズンシップ教育について」(2011) 7P

(8)新城市選挙管理委員会 「平成29年新城市議会議員一般選挙 投票結果及び開票結果」(2017)

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