なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?:「公共」を担う人々に思いを馳せて

レビュー

Heroes of Local Government (HOLG.jp) の編集長である加藤年紀さんが執筆された『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか』が出版された。早速購入し拝読したので、不躾ながら感想や着想を記したい。

『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』とは

まず、加藤年紀さんが運営する Heroes of Local Government (HOLG.jp) について紹介する。HOLG.jpは「地方自治体を応援するメディア」をモットーに、現役の地方自治体職員に対するインタビュー記事やコラム記事の配信、あるいはセミナーの開催などを行う唯一無二のオンラインメディアとなっている

Heroes of Local Government
地方自治体を応援するメディア

本書では、HOLG.jp編集長の加藤年紀さんが選んだ10名の「イノベーティブな公務員」に焦点が当てられている。行政組織という(一見)堅い組織の中で、その10名が如何に『常識・前例・慣習』を乗り越え、自らの思いを実践に移してきたのか。単なるインタビュー記事に留まらず、著者の分析や現職首長からのコラムも交えながら、克明に記された一冊となっている。

第1章 公務員だから活躍できる
♯01 公務員という後ろ盾があるから、挑戦できる
―― 山田崇(塩尻市) / シティプロモーション
♯02 使命感を持って、好きなことをやる
―― 井上純子(北九州市) / 観光 

第2章 どんな仕事も改善できる
♯03 目の前の仕事に誇りを、目の前の仕事に全力を
―― 岡元譲史(寝屋川市) / 徴収
【COLUMN1】世界は変わっている。公務員も変わらなければならない/倉田哲郎(箕面市長)
♯04 学びと実践の先に、突破口は必ずある
―― 鈴木浩之(神奈川県) / 児童虐待 

第3章 冷静と情熱、緻密さと大胆さ
♯05 ボトムアップで組織を動かす 
―― 山本享兵(和光市) / 公会計
【COLUMN2】挑戦する公務員が「当たり前」にならなければならない/小紫雅史(生駒市長)
♯06 不都合な真実を伝える覚悟を持つ
―― 菊池明敏(岩手中部水道企業団) / 水道 

第4章 官と民の視点を操る
♯07 市民をまちの当事者に変える 
―― 大垣弥生(生駒市) / 広報・市民協働
【COLUMN3】公務員戦国時代の到来/東修平(四條畷市長)
♯08 予算ゼロだからこそ、始められることがある 
―― 黒瀬啓介(平戸市) / ふるさと納税 

第5章 公務員・行政の可能性を信じる
♯09 小さな成功体験が未来を拓く第一歩 
―― 酒井直人(中野区) / 業務改善
【COLUMN4 】公務員にしか救えない人がいる/熊谷俊人(千葉市長)
♯10 公務員の志が、世の中を変える 
―― 脇雅昭(総務省・神奈川県) / モチベーション 

第6章 常識・前例・慣習を打破して、公務員像をアップデートせよ! 

おわりに――公務員の「可能性」を信じて

3年の運営を経てHOLG.jpが本になりました (https://holg.jp)

本書の著者である加藤年紀さんを含め、筆者(栗本)自身と面識のある方が何名か取り上げられていたこともあるが、本書を通して「公共のあり方」「公務員」あるいは「組織の中で動くこと」とは如何にあるべきことか、と深く考えさせられる契機となった。

本書を如何に使うか

本書で取り上げられた10名の皆さんは、まさに「個」としての能力を発揮する公務員のロールモデルとしても過言ではないだろう。そして本書の中では(況や公務員ではない)私であっても、強く共感を呼ぶ文が登場する。

公共のような存在でありたい

『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』 P.34

自分は何も役に立っていないと感じる事もあると思いますが、決してそんなことはありません。うまくいっていないと思っている実践の中にも、うまくいっていることが必ずあります

『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』 P.86

やるべきではないことを『やらない』という説明責任も、我々は果たしていかねばならない

『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』 P.117

対話によって政策を考えられる組織にしたい

『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』 P.169

全部、直感で進めています。正直、後付けで論理的に説明しているだけなんです

『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』 P.187

学習と実践は共に大切だが、実践に身を放り込めば、いやが応にも学ばざるを得ない

『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』 P.209

ただ、本書の副題 ”常識・前例・慣習を打破する仕事術” という文言に着目すれば、ただ単にこうした言葉を受け取り、「あ〜、言いたいことが分かるなぁ」と胡坐をかいていては、本末転倒であろう。少なくとも、筆者(栗本)の様に公務員ではない立場の人間は、本書から得られる示唆を如何に自らの実践に還元していくことが肝要ではないか。

無論、この10名が卓越した能力を持ち合わせていることは言うまでもない。そして、公務員という立場にあることも紛れもない事実である。ただ、「自らとは立場が違うから」「能力”値”が違うから」と、ロールモデルの行動や思考を自身から切り離すのではなく、得ることが出来る示唆を自らの価値観や行動様式と照らし合わせ、各々の立場で、意義があると感じることが出来ることを取り入れていくことが、著者がが巻末で述べた『過去”も”他人”も”変えられる、今”も”自分”も”変えられる』ことに繋がるのだろう。

「公」のイメージをアップデートする一冊に

話は変わるが、本書では再三にわたって、既存の「公務員」に対するネガティブなイメージが記述されている。『市役所の人は席で新聞読んで、ぼんやりパソコンを眺めているイメージだった(P.139)』という様な、公務員は”楽”であるという論調や、『税金で食ってるくせに!(P.57)』の様に、安直に税金と公務員/行政組織を紐づけた批判は、今日においても目にする機会は多い。言い換えれば、「公」は概してネガティブな先入観を持って評価されやすい。

そもそも、人々や組織を一緒くたに論じることは、対象を正しく理解し、自らと関係を築こうとする際に、大きな障害となる。また、本書やHOLG.jpで紹介される様な「イノベーティブな公務員」や、必ずしもメディアなどでは取り上げられなくとも、信念に基づいて業務に取り組む公務員は、日本全国に少なくないのではないのではなかろうか。勿論、公権力に対する健全な批判は重要である。ただ、的外れな攻撃は、批判を試みる側・批判を受ける側双方にとって、効果をもたらすことはない。だからこそ、公務員などの立場にない民間の人間は、「公」に対するイメージをアップデートし、正確に捉えようと試みることが欠かせない。

加えて、地方自治において「市民参画」という用語が出てきて久しい。かつて提起されたコンセプト「新しい公共」では、民間(組織・人)も公共の担い手になり得るとされた。そして現に、社会起業・政策起業といった言葉が一般的になり、民間人・組織の立場から、社会課題の解決を目指す事例も増えている。こうした時代において、「公」は雲の上の存在ではなく、『手を携えるべき』存在へと変化している。そうした意味合いからも、「公」、特に公務員の働きを正確に捉えることの重要性は増していると言えるだろう。

幸いにも本書では、公務員のあり方のフロンティアが多く提示されている。本書における事例が、全ての地方自治体で横展開が可能なものではないにせよ、私たちが無意識の内に持つ「公」や「公務員」に対するイメージに一石を投じる一冊であると確信している。

終わりに

私自身も非常に微力ではあるが、公共という世界に関心を持つ人間の一人である。本書を通して、以前に執筆した 『Government as a Service( #GaaS )を目指せ:これからの統治機構とは』でイメージした様な、”機動的な地方政府”における公務員像に対する示唆をも得ることが出来たと感じている。

ただ、それ以上に本書を通して、著者である加藤年紀さんの「公務員愛」の一端に触れる事が出来たことが、素直に嬉しかった。私自身、様々な実践を通して、国家・地方公務員の皆さんにお会いする機会は少なくない。私がお会いしたことのある公務員は、その大半が自らの職務の誇りを持っている方々であった。だからこそ、何かある度に、公務員全体が槍玉に挙げられる様子は、腑に落ちず、どことない悔しさを感じていた。

だからこそ、本書の様な「公務員のリアル」に迫る書籍を通して、「公務員」と一括りにされることで生まれる世間の誤解が、少しでも解かれることを願いたい。そして何より、本書を出版された加藤年紀さんに心からの敬意を表したい。是非皆さんもお手にとってはいかがだろうか。

なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?―常識・前例・慣習を打破する仕事術
公務員には、世の中を変える力がある。組織の壁を越えたトップランナー10人の姿を描く!

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