自治体議員に聞く!『若者の政治参加』インタビュー4:自由民主党・鈴木太郎横浜市会議員

取材・対談

選挙と広報に関して

栗本)地方議員が何をやっているのか分かりにくいという話がありましたが、今回の選挙戦を見ていても、鈴木先生はHPやFacebookを活用した発信を盛んに行っていらっしゃった印象があります。そうしたPR活動に何か思いなどあれば、お聞かせ下さい。

鈴木さん)候補者を選ぶ為には根拠が必要だという考えに立って、まずは「選んでもらうための材料は提供しないといけない」ということが基本的な話ですね。そこから広報に関する戦略にも話が繋がって来ますし、政策の重要度合いも自分の中であるからこそ広報をしていきたい、といった思いがありますね。

栗本)自治体議員全体では、広報に注力されていない方が大半を占める中で、大変心強いお言葉です。

鈴木さん)ただ、私の広報がそこまで充実しているとは思っていないんですよ。例えば、今回のインターネット上の広報をどういう風に考えていったかというと、まず公式のWEBサイトは選挙に際して通常のものとは変えました。これは何故かというと、今回の統一地方選挙では、「選挙ビラ」が使えるようになった事と関係があります。

栗本)ビラとWEBサイトに関係があるのですか…?

鈴木さん)そもそも選挙に際しては、候補者側が「こういう風にやってきて、これからこういう風にしていきたい」という基本は示した上で、それに対して良いか悪いと判断・選んでもらうべき、形が一番ベーシックな「立候補者と有権者との関係性」だと思っているんですね。だからこそ、私自身がそこはしっかりと整えないといけないだろうなという思いがあります。

栗本)情報がないと、良い悪いの判断基準がない事と同義ですね。

鈴木さん)政策として、まずはよこはま自民党としての「責任と約束の60項目」があって、一人でやるわけではなく仲間と取り組んでいくわけだけれども、それらの項目に取り組む事は、所属する議員としてある意味当然ですよね。その上で、自分自身が”自民党の横浜市会議員”としてではなく、”一人の横浜市会議員”として、何を重点として置いてやっていくのか。こちらに関しては、私自身の今までの活動や、これからの展望などから考えて選んでいるわけですね。

栗本)党所属としての議員として主張する政策のみならず、個人としての思いもあって主張される政策もあるという事ですね。

鈴木さん)戦略的な話になりますが、4つの政策分野に集約をして、それらをわかりやすいレベルで、どういうことを言っているのかというところまで落として、今回の(選挙に向けての)政策を作り込んでいるわけです。それらをどう伝えるのか、広げて話をしてしまうと、結局分かりにくいという場合もあるので、必要な情報を絞り混む事を意識していますね。いずれにせよ、どういう媒体を使おうと、基本的に自分で「それで行くんだ」というものを決めている訳です。

栗本)ただ単に分かりやすいものを、という事ではなく、しっかりとした土台に基づいた緻密な「分かりやすさ」を意識されているという事ですね。

鈴木さん)その時に、かねてから選挙公報で伝えるには結構限界があるなと思っていたんですね。今回からビラが使える事になったので、有権者に対してはビラで考えを伝えて、それを基に判断してもらおうというところに持っていく事にしたんです。ですから、選挙公報はビラと統一するのではなく、基本的な政治に対する考え方を示すにとどめ、具体的な政策についてはWEBに行ってくださいという動線を想定しています。ビラは(法定で)8000枚しかない訳ですから、有権者に行き届くかどうかわからない。ビラが行き届かない有権者の皆さんにWEBサイトで届けたいという思いがあります。だからこそ、公報とビラ・Webの関係も変えたんですね。ビラなりWEBサイトなり、テキストベースで纏めたものだけでは、伝えたい事を伝えきれない、やはり「声」が必要です。その為に動画も作成しました。

栗本)選挙に関する媒体ごとに目的を戦略的・戦術的に設定されていらっしゃる、という事ですかね。

鈴木さん)基本はやはり「これまでどういう風にしてきて、これからどうするのか」というのをちゃんとお示しをした上で、判断して頂くという形ですね。そういった部分は、候補者によってやっている人とやっていない人がいますよね。僕はこれで(当選)5回目ですが、やはり出馬するからには、少なくとも考えは纏めておかないと、信用されないですよね。

栗本)当選回数を重ねると、おざなりになる方もいらっしゃるのではないか、という印象が強くあります。

鈴木さん)一番大事なことは「どう纏めるのか」ということなんですよ。実際に4年間活動していて、必ずしも4年前に言った通りになるかといったら、その通りじゃないことが多く出てくるわけですね。ただ、政策の「基本」に据えたことがないと、姿勢そのものがブレていきますよね。

栗本)軸、と呼ばれるものがあるかないか、政治家としての資質にも関わってくるように思います。

鈴木さん)私は4年前の選挙公報をずっと見返しながら活動しているんですよ。今回の選挙公報もこれから定期的に見返して行きますけれども、そうでもしないと候補者が実際に何を言っていたのか忘れちゃいますよね、そういったこともしっかりやっていかないといけないと思っています。

パブリテックについて

栗本)鈴木先生は、選挙戦を通して「パブリテック」に関して主張されておいででした。横浜市でどういった展望があるのかお話を伺いたいと思います。

鈴木さん)パブリテックは、国で『官民データ活用基本法』というものが出来たのですが、この法律は自民党が主導して策定したんですね。国政の自民党と連携をして、法律ができたら直ちに(横浜市で)条例を作ろうと考えていました。それで(横浜市が)全国の自治体で初めて『官民データ活用推進条例』を議員提案で作りました。

栗本)法律と条例の2段階セット、という事ですか。

鈴木さん)この条例の肝は、政府、要するに都道府県に対しては法律に基づいて、それぞれの自治体で法の指示に沿った行政計画を作りなさいと義務付けたと言うことなんですね。ところが市町村に関しては、行政計画の策定は努力義務しか科されなかった。ただ、努力義務とは「やらなくてもいい」という事になりかねませんから、ここ横浜市では条例を設けて、縛りをかけようとしたんです。

条例を作った暁には条例に基づいて、市長サイドが計画を作っていよいよ具体的な取り組みが進んでいくと。その中で行政課題解決に向けてテクノロジーを活用していくという流れになっています。

栗本)実際にどのような事例がございますでしょうか?

鈴木さん)この分野というのは横浜市全体で見ると、いろんなところにタネはあるんですよね。市役所のいくつかの部署で動いているものもあるんですよ。例えばゴミの分別のチャットポットがありますよね。「どうしたらいい」と聞くと答えが返ってくるやつがあるでしょう。これだってパブリティックな訳ですよ。

あとはすでに動いているものだと、横浜市のデータセンタでやっている企業(注:株式会社アイネット)がCSRで保育所情報のポータルを提供しています。それは横浜市がオープンデータとして提供した認可保育所のデータ、住所や定員といった基本的な情報を基に、会社が情報を上乗せ・マッシュアップして、より保育所探しをしやすいサイトが運用されています。

栗本)ごみ収集のような身近な事柄のみならず、より大きな分野でも、パブリテックの実装は可能だと考えていますが、鈴木先生がお力を入れていらっしゃる分野はございますか?

鈴木さん)今、僕は介護系の情報ポータルに力を入れています。横浜市が持っている基本的なデータはオープンデータとして提供して、民間がそれらに情報を上乗せして、オンラインの媒体で公開していただくイメージです。それによってケアプランを作成の時間が短縮されるといった効果を見込んでいます。更に、ケアプランの作成時に、ケアマネージャーさんが自分の知識や経験だけでなく、AIの助けも借りてより質の高いケアプランを作ることが出来るようになるサービスが実現できればと考えています。

栗本)お話にもありましたが、民間との連携が重要になってきそうですね。

鈴木さん)パブリテックは公共や行政分野でテクノロジーを活用させていくことです。これは、やはり民間の力が入ってこないと難しいんですね。だからこそ、どのように上手くコーディネートするのかというのがポイントになります。「パブリテック」と一概に言っても、テクノロジーありきになってしまうと上手くいき難くなりますから、何を実現するのかということをしっかり意識する必要性があると思います。

「これまでICTが入ってこなかったとしたらこれだけ(時間が)かかっていたものが、ICTが入ることでこれだけ効率化されます」とか、あるいは「出来上がったモノの質が従前に比べて高まっていますよ」という変化が大切な訳ですね。ただ単に「テクノロジーがそこにあるから入れました」というだけでは、「それで(どうなの)?」となってしまいますから、かなり気にしながら取り組んでいます。

栗本)「”あるから入れる”という事ではない」というお言葉に強く共感致します。いずれにせよ、パブリテックの実装が進むと、政策に関する価値観にも変化が生まれると思いますが、いかがお考えですか?

鈴木さん)「エビデンスとしてのデータを政策判断にどうやって活かしていくのか」という話はありますよね。例えばこれから更に高齢化が進み、「2025年問題」と言われる様な問題が表面化する訳ですね。つまり、医療や介護の分野で必要な人数が多くなる。全体としての医療費もかさみますよね。そうなると、要介護度が進まないように何か予防をしましょうという方向に施策を展開する事になっていきますよね。

2025年問題:いわゆる団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に達する事で、介護・医療費をはじめとする社会保障関係費が急増するとされている。

参考:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/dl/s0927-8e.pdfh

栗本)予防医療」と呼ばれるものですね。

鈴木さん)その時に視点を下ろしていくと、様々な施策を何の為にやっているのか分かり難くなって来ます。

栗本)具体的にはどのような事でしょうか?

鈴木さん)例えば、要介護度が進まないようにするために介護予防をしましょう、介護予防ということで地域の人たちを集めて介護予防教室を開きましょう、そこで皆で体操しましょうといったケースを考えてみて欲しいんです。

その教室をやる為に行政から補助金を出して、とあるNPO法人にやって貰うことになったとします。事業が終わり、「やってみてどうだったのか」行政や議会から問われると、「100万円使いましたけれども年間何回、どこどこのケアプラザで開きました」「20回開いてそこには毎回20人来ました」「延べ400人参加していますよ」と報告は上がる訳ですね。

栗本)ある種の「成果」は示されて当然ですが、このアウトプットだけで、この施策に意味があったか否か問われると…、目の前の数字だけでは判断できませんよね。

鈴木さん)意味があったかどうかとは、本来分かりにくいものです。ただ、この例を考えてみても、「介護を予防することに効果があったかどうか」という視点を持つことで、より評価の基準を明確にすることが出来ます。これが『アウトプットからアウトカムへ』ということですが、テクノロジーの技術そのものではなくとも、データを用いる事で、こうした(政策に対する)意識転換は、容易になっていくと考えています。そうすると、何より使っているお金の効果が高まるじゃないですか。

栗本)アウトカム重視で政策評価を行う動きは全国でありますが、やはりそれはデータがあってこそですものね。それによって「お金の効果」が高まるのであれば、尚更です。

鈴木さん)今の横浜市はそんなに無駄はないんですよ。結構絞りきった雑巾みたいな感じになっちゃっていて、一生懸命絞っても雫が少しポタポタ垂れるくらいで、10年20年前だったらじゃんじゃん水が出るような感じだったんだけれども、結構絞られているんですよ。

栗本)行財政改革は横浜市でも長年進められてきましたし、何より鈴木先生をはじめとする市会の皆様の働きがあってこそ、だと思います。

鈴木さん)そうすると、「アウトプットからアウトカムへ」の様に、そもそもの発想を変えていくことが必要になってきます。”それなりに”効果のある事柄に関して、本質的に意味があるのか評価を加えた上で、意味のあることにお金をつぎ込む形へと方針転換をしていくことは、これから人口減少社会で求められると思っています。だからこそ、パブリテックの推進によって、発想の転換を生みやすくなることも、大きな利点の一つではないかと。何でもかんでもICTを入れれば良いという話ではなくて、それによって何を実現するのかしっかりと芯を持っていなければならないと思います。

政治家を志したきっかけ

栗本)政治家を志したきっかけなどあれば教えてください。

鈴木さん)僕は1990年に大学を卒業して、社会人になったんですね。その頃はバブルの絶頂期、まさに時代の変わり目みたいなところで、そこから下り坂をずっと歩んで来た訳です。

今でいうメガバンクに就職していたんですけど、僕らより前の世代というのはそういうところに就職したら、定年を迎えた後の老後を含めて、高度経済成長があったからこそ、ある程度「人生を描ける」年代だったと思うんですよ。だけど僕らの世代の頃からそれが崩れてしまって、今後人生どうなるのか「描けない」時代になったんですね。

実際に1990年から2000年前後は金融機関でさえ、潰れていくところもありました。4大証券の一つが倒産する様なこともあり、先行きが見えない中で日々過ごしていた訳ですよ。その状況はあまり幸せじゃないですよね。周りのみんなも「先が何かしら見えていたら楽なのになあ」と思っていた様に記憶しています。その中でスーパーヒーローが出てきて、見えない先を明るく照らしてくれるようなものじゃないですからね(笑)

でも、そういう中でもがく人は必要だな、僕はもがいてみようと思ったんですよ。もがきながら多少なりとも変わればいいかなと考えて、政治家を志しました。ただ、今も(先が)見えるようになって来たとは思えないですけどね(苦笑)

栗本)ありがとうございます。


これまでお伝えしてきました通り、今回は鈴木太郎横浜市会議員(自民党)にインタビューを行いました。尚、インタビュー中の”こぼれ話”を次ページに掲載しております。

次回は本企画の新シリーズ「これからの日本の政治を構想する!」と題して、立石りお中野区議会議員(無所属)との対談をお伝えします。

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