私がおすすめする本(メモ)

コラム

春です。そろそろ1ヶ月遅れで大学の講義がオンラインで開始します。学内では研究会(ゼミ)のSAをしているので、ゼミ生向けにおすすめの本の紹介をしようと文章を勝手に書いていました。しかし、この文章を供養できる機会がなさそうなので、メモとしてこのブログに残しておこうと思います。以下、原文をそのまま貼り付けますので、文体・呼びかけ方はご容赦ください。


私自身が先学期に新たに出会った本の中で、皆さんに是非紹介したい本を以下に示します。

『ネットは社会を分断しない』(田中辰雄・浜屋敏, KADOKAWA(角川文庫), 2019)

一般論として、『現代では、SNSをはじめとするインターネット・ツールが社会の分断を加速させている』という言説を耳にする機会は数多あります。本書はこの一般論をデータに基づいて「社会を分断させている原因はネットの存在自体ではない」ということを明らかにしています。

今日の政治を考える上で、インターネットの存在を考慮することはもはや必要不可欠ですが、そのインターネットに対する印象を少し変化させる[1]ものになると思います。世論形成や熟議、あるいは政治参画の方法としてインターネットを検討される方は少なからずいらっしゃると思いますから、ぜひお手にとってみてください。

『女性のいない民主主義』(前田健太郎, 岩波書店(岩波新書), 2019)

本書は、本邦の政治の世界において、女性の参画は長い間十分になされておらず、(男女共同参画等が謳われる)現代においても男性が圧倒的優位の立場にあるという”事実”をデータに基づいて精緻に示すものです。もちろん、女性の政治参画を考える上では必読だと考えますが、例えば若者の政治参画を考える際にも、本書で用いられる分析・研究の手法とその論理は非常に参考になります。

『野生化するイノベーション』(清水洋, 新潮社(新潮選書)、2019)

著者は経済史の専門家であり、本書は、(現象としての)イノベーションの観点から、失われた20年に関する誤解や俗説を看破し、日本の成長戦略の描き直しを提言するものです。特に、日本人という集団の特性に関する議論(第8章)は、国民と政治の関係性を考える上で非常に興味深いものです。また、「手近な果実」を求めて、鳥瞰的な意思決定と成果が見えにくい研究・投資を忌避する現象についての言及(第9章)があります。これも、日本で政治改革等が遅々として展開しない現状に、何らかの示唆を与えるものではないでしょうか。


[1] 本書の著者の1人である浜屋敏さん(ex-富士通総研)とは、以前とあるPJでご一緒させていただいたご縁があり、本書の課題点として次の3点を示してくださいました。

  1. 今の時点ではネット(自体)が原因とはいえないことは明らかになったが、ネットの特性が分断の原因になる理由はあるのだから、今後も継続的に見ていくべき。
  2. 世の中が分断される傾向にあるとして、その原因が何か、今回は明らかにできなかった。オフラインの雑誌などが過激化している(過激にすると売れる)ことは一面では事実だが、それが分断の原因になっているか否かは、十分に分析できなかった。
  3. ネットを民主主義に効果的なツールにするために必要な条件や仕組みについては言及できなかった。

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