新型コロナウイルスと世代間格差 – 不安に起因する分断と如何に向き合うか

コラム
[本稿は、2020年3月24日15時現在の情報に基づいて記述したものです]

新型コロナウイルス感染症を巡る社会情勢の目まぐるしい変化が、私たちの日常生活にも大きな影響を与えています。ミクロな視点では、テレワークや時差出勤といった働き方改革は急速に浸透することを代表例に、不幸中の幸いとも言うべき変化が起こっていますが、マクロな視点に立てば、一層険しくなる世界経済の先行き見通しや、文脈を変えて生起する米中対立など、安心することのできない要素が山積しています。

異なる「重症化リスク」は、本来は事態を打開する指針となる

この「不安感を覚えざるを得ない」状態に私たちが留め置かれる中、筆者(栗本)は、今般の新型コロナウイルス感染症の特性の1つを懸念しています。それは、高齢者と若年者で重症化率が異なるとされている点です。

厚生労働省・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が去る3月19日に発出した「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では、次の通りの記述があります。

(4)高齢者や持病のある方など重症化リスクの高い皆様へのお願い
新型コロナウイルスの国内ならびに海外での分析によっても高齢であれば比較的健康であっても感染し、重症化する可能性が高いことがわかっています。また、持病にも様々なものがありますが、できるだけ良好なコントロールをしていただくようにし、また感染リスクを下げるような行動をお願いします。また通常の予防接種も、感染症の複合にならないために重要です。

新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」– https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf

もちろん、若年層が新型コロナウイルスに感染・重症化する事例は報告されていますので、「若年層は新型コロナウイルスを警戒する必要がない」などと慢心することがあってはなりません。そして、若年層が無症状感染者となり、見えないクラスターとなるリスクもありますから、若年層も新型コロナウイルスを”正しく恐れる”必要があります。

しかしながら、中国やイタリアなどの(残念ながら)日本と比較して感染が拡大している国における統計を参考にすると、高齢者・基礎疾患を有する方々と若年層の重症化率は明らかに異なります。言うまでもなく、高齢者・基礎疾患を有する方々がより重症化率が相対的に高く、若年層の重症化率は相対的に低くなっています。

参考として厚生労働省が示したシナリオにおける医療需要の目安算出式を以下に示します。

(2)(ピーク時において 1 日あたり新型コロナウイルス感染症で入院治療が必
要な患者数)=(0-14 歳人口)×0.05/100+(15-64 歳人口)×0.02/
100
+(65 歳以上人口) ×0.56/100


(3)(ピーク時において 1 日あたり新型コロナウイルス感染症で重症者として
治療が必要な患者数)=(0-14 歳人口)×0.002/100+(15-64 歳人口)
×0.001/100+(65 歳以上人口) ×0.018/100

(太字加工は筆者が施しました)
新型コロナウイルスの患者数が大幅に増えたときに備えた医療提供体制等の検討について(依頼)– https://www.mhlw.go.jp/content/000605276.pdf

本来、0-14 歳、15-64 歳、65 歳以上の方々について、各々の集団の重症化リスクが「異なる」ことは、社会の資源を適切に分配することの指標となります。

日本で新型コロナウイルス感染症への対策として取られている、所謂「ピークカット」戦略についても、集団によって重症化リスクが異なる、あるいは地域によって感染拡大の時期が異なるからこそ、医療に関する資源を適当に配分し、高齢者や基礎疾患を持つ方々を守ることが可能になり、戦略として機能します。

不安の中で目に見える「差異」が分断に繋がらないか

人が「不安」を感じた際には、その状態の下で心の安定を保とうとする為に、人は様々なリアクションを取ることがあります。一般的に「適応機制」と呼ばれるものです。

今回の新型コロナウイルス感染症の拡大の様に、不安感が全世界的に醸成されている中では、メディアの報道、インターネット上のSNS…etc.がコロナウイルス関連の情報一色になりがちです。ただ、感染症である以上、私たちはある程度自分ごととして、その情報を追い続ける必要に迫られます。結果、私たちの心の中にある不安が、時には形を変えながら増大し続けることから逃れることはできません。

パキスタン・Dunya Newsもコロナウイルス一色の報道

この不安に対する適応機制として『攻撃』が行われた際、若年層は高齢者に、高齢者は若年層にその攻撃の矛先を向け、これまで以上に世代間の分断が煽られることは想像に難くありません。このことが、今私が最も懸念していることです。

欧米では、グレタ・トゥーンベリさんの地球温暖化に対する活動を皮切りに、地球温暖化等の地球規模の課題に取り組まない、現在の意思決定の中心にいる年代(日本における団塊の世代)を『boomer』と呼称し、”蔑む”動きが直近半年程度見られてきました。この動きは、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大と合わさり、欧米を中心に『#boomerremover』というハッシュタグが話題になっています。前述の通り、高齢者の重症化リスクが高いことから、新型コロナウイルス感染症が『boomer』世代を排除するものとして、評価の対象になっている訳です。

筆者自身は、この『#boomerremover』というムーブメントには与しません。しかしながら、例えば社会保障費の増大などをテーマに『シルバーデモクラシー』が日本の課題として提唱されてきたことは、皆さんのご記憶に新しいでしょう。若年層一人ひとりが抱える、コロナウイルス関連の不安の増大に対する適応機制として、シルバーデモクラシーと紐づけられた瞬間、若年層と高齢者間の断絶は、『人の生き死に』を媒体とする(=人間の社会性を正面から否定する)ものになり、両者の世代間対話はより困難になります。

これが、私たちの社会の持続可能性や発展に資するものとは到底考えられません。私たちは同じ社会に生きていることは言うまでもありませんし、この新型コロナウイルス感染症の拡大に際して”闘う”べき相手は、人間ではなくウイルスです。今、私たちが念頭に置かなければならないことは、世代を超えて繋がり、その繋がりによって感染症の拡大を防止することだと考えます。

その為に、まずは手洗い・うがいを励行すること、コロナウイルスを正しく恐れようとすること、重症化リスクが高い方々は可能な限りリスク回避を念頭においた行動を徹底することが欠かせないと言えるのではないでしょうか。

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