旧民主党と同じ轍?:国民民主党と野党共闘に関する雑感

コラム

国民民主党が、立憲民主党、自由党、社民党、共産党と共に、「平和安全法制整備法廃止法案」他を参議院に共同提出したという報道に接した。国民民主党が玉木雄一郎代表の下で、「反対ありきではなく、提案型政党への昇華」を意識していることは既報の通りである。そうした中、この「平和安全法制整備法廃止法案」の様な『反対ありき』の法案を提出した事に、ただ驚きを隠せない。

民主党は本当に「反対」だったのか

集団的自衛権の部分的解禁と民主党・民進党

そもそも、「平和安全法制」の審議に際して反対に回った民主党の内部で、同法制内容に必ずしも反対でない議員が相当数いた事は、明らかである。前原誠司元外相や玄葉光一郎元外相、長島昭久元防衛副大臣らが民主党政権期以前から集団的自衛権の解禁に言及していた事、あるいは野田政権下の国家戦略会議フロンティア分科会における「集団的自衛権の解禁」に関する提言発出があったことなどを思い返してみてほしい。

従って、本来であれば、民主党も(無論、党内で集団的自衛権の行使容認に対する態度には相当なコントラストがあったとは言え)平和安全法制の審議に際しても、ただ単に「反対」と唱えるのではなく、政府案の欠陥を突く様な対案を示す事は十分に可能であったと推測できる。しかしながら、2015年の審議以降において、あるいは、その後の民主党・維新の党の合同によって誕生した民進党においても、『平和安全法制に全面的に反対』あるいは『集団的自衛権は違憲』という論調が多数であり、平和安全法制整備法等の改正を図ろうという機運醸成は見られなかった。

2017年衆院選という転機とその後

しかしながら、2017年の衆院選直前の「希望の党」結党に際しては、同党が平和安全法制を容認する姿勢を強く打ち出していたにも関わらず、民進党から相当数の議員が希望の党の公認を得て出馬した。選挙の結果としては、希望の党は立憲民主党の後塵を拝し、野党第2党の立場に収まった。平和安全法制を認めてこなかった旧民進党の一定数の議員が、平和安全法制を容認する立場に転換していた事は、転機であったと言って良いだろう。

結果的に、旧希望の党は分党、国民民主党が誕生した。同党は、平和安全法制に関して、言うまでもなく、見直しを定期的に主張していたが、あからさまには同法を『違憲』と断じた上で『廃止』は主張して来なかった。

ここで、改めて希望の党の大半の議員が移籍した国民民主党と、希望の党の結党を遠因として誕生した立憲民主党の安全保障政策観の違いを改めて見直したい。

私たちは、日本が戦後ずっと追求してきた平和主義は、絶対に守り続けます。現政権のように、従来の憲法解釈を恣意的に変え、野放図に自衛権の範囲を拡大する立場はとりません。しかし同時に、厳しさを増す安全保障環境の中で、現実的な対応を示さなければ、安心して政権を任せてもらえる政党にはなれません。

国民民主党 私たちの理念と政策の方向性(2018年7月9日)

専守防衛を逸脱し立憲主義を破壊する、違憲の「安保法制」を前提とした現行の外交・安全保 障政策を断ち、専守防衛に基づく平和的かつ現実的な外交・安全保障政策を築く。

立憲民主党 立憲民主党の外交・安全保障政策(2018年4月19日)

筆者は、国民民主党と立憲民主党の同法に対するこの姿勢の差異に、国民民主党が、2大政党の一翼を担いうる「提案型」の政党へと昇華する可能性を見出していた。現在の議席数では、国民民主党が「数の論理」で改正案を成立させる事は不可能であるからこそ、定期的に同法制の欠陥を指摘し、改正を主張し続ければ、例えば自公政権の支持者を含む国民の世論喚起へと繋がり、結果的に何らかの形での改正(見直し)に繋がる可能性も留保し得る為である。

自公政権から何らかの譲歩を引き出す為にも、敢えて同法案を違憲と断じたり、廃止を求めたりしない姿勢は肝要であったと言っても良いのではないだろうか。

対外政策の大筋一致は2大政党制の大前提

先日のコラム 気品ある「保守」と論理的な「革新」、「オルタナティブ」はどうしようか や、約1年前のコラム 自民党に変わるオルタナティブな政党は出て来ないのか でも述べたように、私は原則として、二大政党制を前提とする”政権交代可能な状態”こそが、日本の民主主義の発展、あるいは困難な時代におけるリーダーシップの強い政治に寄与するものと考えている。

2大政党制の実現を検討した際、少なくとも現在の状況では、自民党を2つに割る事は、困難であろう。従って、自民党に対峙し得る政党を出現させる必要がある。その政党に求められる事は、第一に自民党政権と外交政策の連続性を原則として維持する(その分、内政の差別化を図る必要がある)ことを明らかにする事、第二に自民党政権に対する提案・対案提出を継続し、政策立案能力を強化する事、そして地方組織の確立であると考えている。

地方組織に関しては今回は割愛するが、今回、国民民主党が「平和安全法制整備法廃止法案」を参議院に提出した事は、前述の1点目、2点目の観点から、憂慮すべきものであると言えるだろう。少なくとも、安全保障政策が、国家の根本をなすものであると同時に、日米関係も同法制を前提として、更に発展・深化している事を考えれば、その法制の廃止を訴える事は、到底現実的ではない。国民民主党が理想とする『安全保障政策』を実現する為に、ただ単に同法制の廃止ではなく、改正案なり何らかの対案を提示すべきであったのではないだろうか。

政権担当を志向するのであれば

これまで述べてきた事は、あくまでも国民民主党が、政権を担い得る政党を志向するのであれば、という前提に立った話である。もしそうではないのであれば、冒頭で示したツイートのように、立憲民主党はまだしも、本来の支持層とは相容れない社民党や共産党と共同提出する事は大きな影響はないのであろう。しかし、国民民主党が、仮にも「政権担当」を志向するのであれば、単なる反対では国民の理解を得る事は到底敵わないだろう。

今夏には、自民党から民主党への政権交代から10年を迎える。3年余の間、政権を担当した政党が、その後は自民党に反対する事に自縄自縛となり、結果として瓦解した事を思い出しながら、今の国民民主党の様子を目の当たりにすると、思うところは大きい。国民不在のアピールは、果たして誰に向けたものなのだろうか。党名に「国民」を冠するのであれば、尚更である。

 

追記(2019年4月24日01:30)

本記事の公開以降に、この様な報道がなされた。
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本来であれば、この様な対応に終始すれば、提案型野党としてのポジションを十分に獲得出来るのではないだろうか。他の野党との共闘姿勢を殊更にアピールする従前の対応には、依然として若干の不信感を拭い去ることができていない。

コメント

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