争点を考える:横浜市会選

コラム

今週末の4月7日は統一地方選挙の前半戦(知事選・政令市長選・都道府県議選・政令市議選)の投票日である。全国的に、統一地方選挙における統一率が低下していることも課題として挙げられるものの、依然として大きな政治イベントであることは間違いない。

「統一選」は名ばかり 実施わずか27%(1/3ページ)
<統一地方選>

例えば、筆者が本籍を置く横浜市では、このタイミングで神奈川県知事選挙・神奈川県議会選挙・横浜市会選挙が行われる。県知事と言えば、他の2つの選挙で争われるポジションよりもイメージがつきやすく、尚且つ「神奈川県政のリーダー」としての政策判断軸も見え易い。しかしながら、県議会(議員)、市議会(議員)ともなれば、今回の選挙の焦点は何なのか、そもそも彼ら・彼女らの日常的な職務はどのような内容なのか、イメージを持ち難いことは否めない。

そこで今回は、筆者なりに横浜市会の現状をまとめた上で、今回の選挙の争点を考察していきたいと考えている。特に選挙における争点の洗い出しに際しては、公平性を期す為に、市選管が発行している「選挙公報」を用いた。これらの情報が、少しでも有権者のお役に立てばこの上ない。

前提:横浜市の概観

横浜市は、地方自治法では「基礎自治体」と位置付けられている。基礎自治体とは、国の行政区画の中で最小の単位であり、独自の議会や公選(選挙を通して選ばれる)の首長(市長・町長・区長…)などの「自治制度」を持つ。一般的に『市区町村』と呼ばれるものが、基礎自治体にあたる。

そうした基礎自治体は全国に1700以上存在するが、その中でも横浜市は県と同等の権能を持つ「政令指定都市」として指定されている他、人口規模では370万人と全国1位(3,724,844人/2015年国勢調査)、経済に関しても市内総生産12兆3000億円強(12兆3418億900万円/横浜市政策局「平成 26 年度横浜市の市民経済計算」)であり、基礎自治体の中では大阪市についで国内2位の経済規模を持つ。

また、この自治体としての横浜市を運営する為に、2019年度には3兆7048億円、2018年度には3兆5911億円という大きな規模の予算が組まれている(横浜市財政局「平成31年度予算案について」)

参考までに、筆者オリジナルの計算ではあるが、この経済規模は”世界の国内総生産ランキング”では大凡60位前後に位置付けられる。正真正銘「世界に冠たる大都市・横浜」と言って良いだろう。

横浜市会とは何か:

横浜市会とは、前述の基礎自治体としての「横浜市」に設置されている合議制の議会である。他市では”市議会”という名称が用いられているが、横浜・名古屋・京都・大阪・神戸の市議会については、かつて明治21年に制定された「市制」という法律に由来する『市会』という名称を現在でも使用している。

そもそも、市会の役割とは何だろうか。最も重要なものとして、「市の予算」や国の法律の範囲内で制定される自治体オリジナルの法規である「条例」、あるいは一定金額以上の「契約」などに関して、審議・議決を行うことが挙げられる。この行為は”議決権”という議会固有の権利に基づく。

そのほかにも、市政全般に関する事柄に調査を行う”調査権”や、市に設置される様々な役職(副市長や教育委員会委員など)に関して、市長が指名した者に同意する”同意権”、あるいは市の業務そのものをチェックする検査権・監査請求権なども有している。

市会(市議会)が持つ権限

  • 議決権
  • 調査権
  • 同意権
  • 検査権・監査請求権
  • 意見書提出権:市を代表して、市に関する事柄に関する意見書を国や県などに提出する権利 など

ここまで述べてきた様な権限や役割を横浜市において果たすのが「横浜市会」なのである。

その市会は合計86人の議員によって構成されている。この議員は横浜市内にある18の行政区を選挙区として選出されている。合計86人の議員のうち、平成30年7月1日段階の集計で、20代の議員はおらず、30代が9名、40代が21名、50代が30名、60代が17名、70代が9名となっており、平均年齢は54歳であった。

また、議員は市から報酬を受け取っている。その額は役職のない議員であっても、953,000円/月(年収1143万6,000円)と条例によって定められている。これに期末手当等が加えて支給されることを考えると、額面そのものは相当な金額であると言って良いだろう。

なぜ市会(市議会)が市民にとって重要なのか

上記の通り、市会(市議会)の役割を見てきたが、なぜ市会(市議会)が重要なのかと言われても、イマイチ判然としない。そこで筆者(栗本)なりに考察を加えてみた。

直接的に「市」に関係して選挙で選ばれる役職には、大きく分けて首長たる市長、そしてここまで触れてきた市会の構成員である市会議員が存在する。大別すれば、市長は市役所のトップであり、市の運営を動かしていく責任を持つ。一方、市会(市議会)は、市役所から独立した組織であり、市長から提案された予算・条例案などに関する審議や議決、あるいは前述の調査権・検査権・監査請求権などを行使することを通して、市の運営(市政)の公正性や適当性を担保していく役割がある。

これら「市長をトップとする市役所(執行機関)」と「市会(議決機関)」は双方から独立し、対等であるとされている。これは『二元代表制』と呼ばれている。議会に関しては、構成員である議員が議論を積み重ねていくことで結論に導く”合議制”であることも大きな特徴であろう。 

つまり、「市長をトップとする市役所」と「市会(市議会)」はお互いに(一定程度の)牽制・緊張関係にあることで、全体としての、様々な政策・施策の公正性と安定性が担保されると言って良いだろう。私たちが納税したお金が納得した使われ方をする為にも、市会(市議会)をしっかりと機能させていく事は重要なのだ。

これからは政策シンクタンクとしての市会議員!

ここまで述べてきたことを踏まえれば、市会(市議会)をはじめとする地方議会の役割は、役所に対する監査のみであるが、筆者はそれに留まらないものが地方議会にあると考えている。それは、政策シンクタンクとしての「議会議員」の役割である。

言うまでもなく、市会(市議会)を構成する議員は、市内から選挙によって選出されている。選挙において候補者は「○○に力を入れます」「○○を変えます」などと各々の政策・方針を訴えながら、票を獲得し、者によっては当選し、者によっては落選する。つまり、選挙で当選した議員は、本来であれば有権者からの支持を得た何らかの「政策集」を有しているはずである。

無論、現在の横浜市会を含む地方議会の選挙は『地上戦』であることが多い。地上戦とは、無党派層などの非固定的な支持者からの得票を目指すのではなく、例えば何らかの地縁組織(町会や自治会など)や労働組合、あるいは政党組織と言った、各候補者の支持基盤となる組織からの得票を最重要視する選挙方法である。(付言すれば、この傾向は都市部よりも地方部の方が一般的には強いと考えられる。)

しかし、そうであったとしても、各候補者は自身(自陣営)が明らかにした政策・方針のみならず、政治活動や選挙運動を通して様々な市民から得た声に基づく政策・方針のタネを持つ存在であることには変わりがない。そうであるならば、地方議会議員が、ある意味”政策シンクタンク”的な役割を果たす、例えば地方議会の場において、条例提案を行なっていくことや政策提言を行なっていく事は十分に可能であるし、市民の代表として求められていると言って良いだろう。

議員による政策的条例提案はわずか0.143%という地方議会の現実

上記の記事で触れられている様な現状が目の前に横たわっていることも筆者は十分に理解している。しかしながら、今回の統一地方選挙から町村議会を除く地方議会選挙で、従来は認められていなかった『ビラの配布』が解禁された様に、地方議会選挙においても、政策ベースの競争が行われる期待もある。議員を政策シンクタンクとして機能させ、各地域の地方自治を活性化させる為にも、是非「政策を持った」議員を地方議会に送り出したい。

蛇足ではあるが、筆者(栗本)は、統一地方選挙後半戦に向けて、「若者の政治参画」に関する政策的アドバイザリーを行なっている。よろしければ下記の記事も参考にされたい。例えば、同記事で触れた立石りおさんは、上記の「政策シンクタンクとしての地方議員」像を体現するお一人である。

筆者が寄稿した記事

横浜市会選挙の争点は何か

話は少し飛躍してしまったが、改めて今回の横浜市会選挙の争点を考えていきたい。争点を洗い出す過程では『選挙公報』という資料を使用した。選挙公報とは、その選挙を管理する各自治体の「選挙管理委員会」によって発行されており、各候補者が作成した文書・資料がまとめて掲載されている。

今回、横浜市会選挙の争点を検討するにあたっては、筆者が選挙権を持つ「戸塚区選挙区」を題材とする。無論、今回の争点の洗い出しに際して、筆者は特定の候補者・政党を支持/不支持とすることなく、政策ベースという視座に立って、話を進めていく。この2点については何卒ご理解頂きたい。

選挙概要及び選挙公報一覧

今回の横浜市会選挙・戸塚選挙区には定数6に対して計10名が立候補している。投票に際しては候補者1名を記名し、純粋に得票の多い順に定数に合わせて当選者が確定する(単記非移譲式投票)。

前回の統一地方選挙においては、選挙そのものの有権者が219,720名であり、投票率は42.82%であった。また、前回選挙においては定数6に対して9名が立候補。最多得票を得た者の得票数は20,618票であり、得票率は22.3%であった。尚、この数字は同選挙区における全有権者数の約9.5%にあたる。また、最小得票数で当選した者の得票数は8,733票であり、得票率は9.5%。これは同選挙区における全有権者数の約4.1%である。

各候補者の選挙公報を見てみよう

それでは早速、各候補者の選挙公報を見てみよう。

山浦英太候補(立憲民主党公認)

ホームページ / Twitter なし / Facebook

伏見ゆきえ候補(自由民主党公認)

ホームページ / Twitter (@fushimi1988) / Facebook

高柳さかえ候補(日本維新の会公認)

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足立ひでき候補(無所属)

ホームページ / Twitter (@adachi_hideki) / Facebook(個人アカウントあり)

岩崎ひろし候補(日本共産党公認)

ホームページ / Twitter なし / Facebook なし

川辺よし男候補(国民民主党公認)

ホームページ なし / Twitter なし / Facebook なし

鈴木太郎候補(自由民主党公認)

ホームページ / Twitter (@suzukitaro1967) / Facebook

広こしゆみこ候補(無所属)

ホームページ / Twitter (@yumiko1054) / Facebook なし

中島みつのり候補(公明党公認)

ホームページ / Twitter なし / Facebook

坂本勝司候補(国民民主党公認)

ホームページ / Twitter なし / Facebook

お気付きの方もいらっしゃるかもしれないが、各選挙公報の欄外に、各候補者のブログ・ホームページ、Twitter、Facebookのリンクを記載している。これは、筆者が「政治家と市民のコミュニケーション手段としてのインターネットツール利活用」も判断軸の一つ、あるいは各候補者の発信の裏付けとして考慮して頂きたいと考えている為である。

ご覧になっていただければ分かるように、各候補者の重点政策は比較的重なる部分が多い。選挙公報ベースで比較をしてみても、「子育て」については9人/10人の候補者が言及をしており、同様に災害対策、医療の充実についても言及のある候補が多い。あるいは、複数の候補が「戸塚駅・東戸塚駅へのホームドア設置」「18歳までの医療費無償化」に関しても、何らかの言及を行なっている。

あるいは『反対』と言ったネガティブな文言もある程度は目立つ。複数の候補が「カジノ」に対して明確な反対の意思表示を行なっている。これは、昨年7月に成立した「IR(統合型リゾート)実施法案」に基づいて、基礎自治体がその設置を申請できるようになったことが背景にあるだろう。

また、「給食・ハマ弁」に対する言及も一定程度見られる。これは、現状横浜市立中学校で給食の代わりとして採用されている『ハマ弁』が、そのコストや”美味しさ”、あるいは導入率が、当初の計画水準を大幅に下回っていることが背景にあると言って良いだろう。

自分の税金の使い道は自分で決めよう

なにはともあれ、明日・4月7日は横浜市会選挙の投票日である。自分自身が納めた税金が納得のいく使われ方をする様に、あるいは自分自身の興味関心がある政策領域へと投入される様に、しっかりと1票を投じて頂きたい。

明日は選挙に行こう!

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