インターネット選挙運動の沿革5:現状評価と今後への期待

コラム

SNSを用いた政治活動・選挙運動:リッチコンテンツ化する広報

2012年から2013年にかけてスマートフォンの普及が爆発的に進み、インターネットへの接続が国民にとってもより容易になった[1]。また、いわゆる第4世代移動通信システム(4G回線)の普及が進んだ事で、動画等のリッチコンテンツの消費がより簡便になった。

これらの要素を前提として、今では各政党がホームページやブログ、Facebookといったテキスト・コンテンツのみならず、InstagramやYouTubeといった画像・動画コンテンツを用いた発信も行う時代に突入し、使用するメディアの幅は以前よりも格段に増している。また、従来は政党あるいは候補者が有権者に対して一方的に働きかける為のツールであったインターネットは、SNSの登場を最大のきっかけとして“双方向のやり取り”が重視されるように変化した。これらの流れを受けて、昨今では各政党・候補者ともインターネットを活用しながら積極的な政治運動・選挙運動に取り組んでいる。

自民党は安倍晋三・自民党総裁の動画コンテンツも交えた発信や自民党公式YouTubeチャンネル上でのライブ番組“CafeSta(カフェスタ)”の配信など代表とする広報をマス・マーケティング的に展開しつつ、オンライン・チャットサービスのLINEでは“自民党公式アカウント”を開設[2]、個々のユーザーをターゲットとしたダイレクト・マーケティング的な手法も展開している。

一方、立憲民主党は自民党と使用するサービスには大きな差はないものの、特にTwitter上では一方的な広報に留まらない、他のTwitterユーザーと積極的に交流を図る方針を強く打ち出している[3](図1を参照のこと)。

国民民主党は様々なコンテンツの中でも動画を重視する姿勢を明確にしており、玉木雄一郎・党代表個人のYouTubeチャンネル「たまきチャンネル」における積極的な動画配信の他、党本部内に「こくみんスタジオ」を設置するなど、『動画での情報発信を強化する』ことを党広報戦略の中心に据えている (国民民主党 2019)。

他の政党に関しても、ホームページは指摘するまでもなく、Twitterアカウント・Facebookページ・YouTubeチャンネルは全ての政党[4]が開設している他、InstagramやLINE公式アカウントを作成している政党が大半である。(図2を参照のこと)

図1:Twitter上の発信比較(2019年1月26日現在・筆者作成)[5]

  フォロワー数 ツイート数 開設時期 平均ツイート数
自由民主党 156908 10125 2009年7月20日 2.9回/日
立憲民主党 175733 12252 2017年10月2日 25.5回/日
国民民主党 5049 2210 2018年5月1日 8.2回/日
公明党 77597 13700 2010年3月4日 4.2回/日
日本維新の会 19514 2066 2016年1月4日 1.8回/日
自由党 38694 1963 2013年2月4日 0.9回/日
希望の党 12438 782 2017年9月25日 1.6回/日
社会民主党 12771 29778 2013年2月13日 5.9回/日
日本共産党 58959 20338 2013年5月16日 9.8回/日

図2:日本の各政党におけるSNSアカウントの開設状況[6] (筆者作成)

政党/サービス名ホームページTwitterFacebookLINE@YouTubeニコニコ動画Instagram
自由民主党 
立憲民主党  
国民民主党 
公明党
日本維新の会  
自由党 
希望の党
社会民主党 
日本共産党  

インターネット選挙運動時代における課題

2013年のインターネット選挙運動の解禁によって、前述の様なSNSの利活用を中心とした政治活動・選挙活動は以前と比較して飛躍的に活発となった。特に、2015年の公職選挙法改正に伴い20歳から18歳へと選挙権が引き下げられた結果として、所謂デジタルネイティブ世代の政治参加が求められる様になったこともあり、今後もSNSの利活用は積極的に行われていくものと推測できる。

その一方で、より多くの支持層の獲得を目的とした、見栄えの良い/キャッチーな発信がより一層加速していくことは否めない。無論、政治参加のハードルを低くする為にも一定程度の見栄えの良さやキャッチーさは必要ではあろうが、意図や背景、あるいは思想といったものが露わになり難くなっていくのでは無いだろうか。従って、発信された内容を読み解く力(メディア・リテラシー)がこれまで以上に欠かせない時代になることは容易に想像がつく。

無論、電子メールを利用した選挙活動などに関する制限は依然として残置されているものの、インターネットを利活用した選挙活動・政治活動はピークを迎えていると言っても過言ではない今日、メディアリテラシーに向き合う必要があるのは決して若者だけではない。有権者や政党、候補者といった全ての属性の国民が、全世代的にポスト・マスメディア時代への適応が否応なしに求められている。

同時に、SNS等を中心にインターネット空間を利用する政党や候補者の「情報に向き合う姿勢」も問われていると言って良いだろう。動画や画像を用いた発信がより簡便になる一方で、ある種の“虚飾”や“虚勢”を張ることが以前にも増して容易になっているとの指摘は有効であろう。

動画や画像と言ったコンテンツをテキストコンテンツと比較した際に、視覚的な刺激が強く、特に動画に関しては聴覚的な刺激も加わり、視聴者にとってはより消費し易いコンテンツであることから、“見た目”や“取っ付き易さ”のみに囚われない発信に偏重することは容易に想像がつく。

そうであるからこそ、虚飾とならないような『中身のある』広報が求められることは言うまでもない。そして、各党が発信する内容を有権者が吟味する為にも、各党内の議論や情報に関しても、出来るだけ開かれたものにしていくことも欠かせないのでは無いだろうか。インターネット選挙運動時代であるからこそ、更にオープンな政党運営に期待したい。


[1] 普及率は2011年には29.3%であったが、2012年には49.5%、2013年には62.6%に達した

[2] LINE社の提供する“LINE@”機能を用いて、公式アカウントを運用している

[3] この方針は党の「立憲民主党はあなたです」という草の根的思想に基づくものであると考えられる

[4] 公職選挙法が規定する政党要件を満たす政治団体に限る

[5] 本比較はあくまでも同一アカウントでの発信状況を図表にまとめたものであり、開設時期に同名・同一の政党が存在していたとは限らない(日本維新の会・自由党・希望の党)。

[6] 今日において各政党が発信を展開する際には、社会において広く普及するサービス(例:SNS)上でアカウントを開設する等の手法が一般的であり、かつてのJ-NSCの様に独自のWebサービスを構築してターゲット層を囲い込む方法は下火となったといって良いだろう

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