若者議連:実効性のある施策の為に「若者政策」の定義を

コラム

私自身もこれまで様々な場所で「若者政策の推進」を主張してきた。しかしその一方で、若者政策に関する「明確な定義」がなされていないが為に、若者政策という表現に様々な要素を盛り込む結果となっている場合も少なくない。

国会内で超党派による「若者政策推進議員連盟」が立ち上がった今だからこそ、改めて「若者政策」とは何か、そして「若者政策を実際に推進する際の方向性」に関して、考えてみたい。

若者政策とは、若者に関わる全ての政策を指す言葉なのか?

”若者政策”という語感をそのまま解釈すれば、若者政策とは「若者に関わる政策全般」となるであろう。一方で、今日語られる「若者政策」は、より狭義なものを指すことが多い印象がある。

では、その場合の「若者政策」とは、一体どの様なものを指しているのだろうか。端的に指摘をすれば「若者の政治・社会参画に関わる政策」である。例としては、『18歳への選挙権年齢引き下げ』や『被選挙権年齢の引き下げ』、『審議会への若者の登用』などを挙げることができる。これは、従来は比較的高齢な層で占められることの多かった各種議会・審議会等において、「若者の世代代表」を存在させ、様々な課題に関して、全世代的に(持続可能性を高めた形で)検討を進めることが出来る、または、少なくとも若者が直接的に関わる課題に関して、若者が当事者として議論と決定に参加できる環境を整備しようとするものだ。

この推論は、今般発足した若者政策推進議員連盟の中心を為す自民党代議士が、自民党における「若者の政治参加プロジェクトチーム(以下:自民党若者PT)」の中心的人物であったことからも伺える。また、今は無き民進党のホームページ内に設置されていた「民進党の若者政策 若い皆さんの未来に希望を」というページにおいては、『民進党は、若者の政治参加、雇用改革、学びの後押し、子育て支援を進めます。』と明記され、ここでもやはり、若者政策の一義的な意味合いとして「若者の政治参加」があったことが分かるだろう。

若者の政治・社会参加を推し進めるにあたって、若者の声を吸い上げる為の制度を整備するのか、それとも既存の制度の中で、年齢の幅を(下限を引き下げる方向で)広げるのか、という差異はあれ、様々な議論・決定がなされる場に対する若者の影響力向上を図るという点で、両者は共通している。

つまり、今日の「若者政策」は『様々な(政治的・社会的な)決定の場における年齢の幅を広げようとする政策』という意味合いが、一義的なものになることが多いのではないかと筆者自身は考えている。

ベクトルが異なるものを「若者政策」に包摂すべきか

しかしながら、前段で述べた今日の「若者政策」は『様々な(政治的・社会的な)決定の場における年齢の幅を広げようとする政策』」という定義付けも、あくまでも「印象的」もしくは「不明瞭な線引」によるものであり、何ら実態的な定義を持つものではない。

”被選挙権年齢引き下げ”という政策

例えば選挙分野における「若者政策」に関して考えてみよう。18歳選挙権が成立した現在では、次の大きなフェーズとして「被選挙権年齢の引き下げ」が検討されており、政権与党である自由民主党も、以下の内容を昨年の衆議院議員総選挙の際にマニフェストとして掲げていた。

選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことを踏まえ、被選挙権年齢についても引き下げの方向で検討します。対象・摘要年齢は若者団体等広く意見を聴いた上で結論を出します。(出典:自由民主党サイト

注意したい点は、被選挙権年齢の引き下げは、あくまでも選挙に出馬する際の「年齢の幅という制限」に関する政策に過ぎない。そういった意味において、(実際に当選するかはともかくとして)若者の政治参加をより推し進める政策という事が考えられる。

”供託金引き下げ”という政策

一方、供託金引き下げについての議論も各所でなされており、その基本的な趣旨としては「現在の供託金は高額であり、選挙立候補の際の大きな障害となっている。より広範な人物の立候補を進めるためにも、供託金の額を引き下げるべきである」といったものである。

ただ、この政策は被選挙権年齢引き下げという政策とは大きく違った命題を抱合している。それは「単なる年齢の枠に留まらない候補者の多様化を目指すべきか」ということである。勿論、選挙の種別によって供託金の額は大きく異なっているが、供託金が存在する事によって公職選挙への無用な候補乱立を防いでいる面があることは事実であろう。

つまり、「供託金引き下げ」は単なる「若者の影響力向上」に留まらない政策であるため、(副次的に重要な視点とは言うことが出来るだろうが)純粋に若者の政治参加を推し進める政策と評価することは出来ないだろう。

異質なものが混在する現在

今回、「被選挙権年齢」そして「供託金引き下げ」を例示したが、選挙における若者の参加を進めようとする施策であっても、ただ単に”年齢”の問題なのか、それ以外の命題も含むのかによって、議論の進展も大きく異なってくるだろう。そして勿論、後者の場合はより複雑かつ困難な議論を要することになることは明らかである。

しかしながら、現在ではそれら両者が織り交ぜられ議論されている場面が少なくはない。現に、自民党若者PTが発出した提言書においては、「投票環境の向上」から「主権者教育」「意思決定への参画」といった分野が横断的に述べられている。そればかりか、「意思決定への参画」という分野に注目してみても、審議会改革若者議会若者協議会供託金額被選挙権年齢といった様に、若者に対象を絞ったものからそうでないものまでが混在していることが明らかである。

加えて、これまでの話はあくまでも「若者の政治参加の向上」という共通点を持つものであったが、時と場合によっては、若者政策に「子どもの貧困対策」や「奨学金問題」まで包摂して議論される場合があり、若者政策と一口に言っても、様々な視点が内包され過ぎていることは明白であるといって良いだろう。

今後の方向性:着実に歩みを進めるべき

では、今後の若者政策に関するロードマップはどうあるべきなのであろうか。どの様な段階を踏み、「若者政策」を進展させて行くべきなのだろうか。筆者自身は「若者政策」そのものを次の3つの命題と直接関係する施策に現時点では限定し、着実に政策の展開を期すべきと考えている。

・ファーストステップ:既存の議論・決定枠組みへの若者参加の推進

・セカンドステップ:若者に焦点をあてた意見集約枠組みの設置推進

・サードステップ:若者に関する政策を包括的に行う官庁の設置

・同時並行:主権者教育よりも更に広い概念の『シティズンシップ教育』の推進

これらの段階を経ることによって、若者政策の進展を図っていくべきではないだろうか。言い方を変えれば、各項目に関して順を追って説明していきたい。

「ファーストステップ:既存の議論・決定枠組みへの若者参加の推進」に関して

このステップにおいて重要な視点は”既存の枠組みを利用する”ということである。既存の枠組みを活用する方法は、根本的な制度設計の変更を要さないため、様々な部局において展開可能であると同時に、最も実現可能性が高いと言える。また、実態的には既存の枠組みを活かす形が最も高い影響力を発揮できるとも考えることができる。

尚、この場合の『既存の枠組み』とは、例えば国会や自治体議会といった枠組み、または各種審議会を想定している。

「セカンドステップ:「若者」に焦点をあてた意見集約枠組みの設置推進」に関して

このステップは「より幅の広い若者の意見を吸い上げる」ことが目的である。既存の枠組みを活かすというファーストステップにおいて、実際にそれに関わろうとする若者はかなり希少な存在となることは容易に想像できる。だからこそ、このステップにおいては、より多くの若者の意見を集約する制度設計が肝要となる。

この枠組みの制度設計として、1つの参考すべきなのは、やはりスウェーデンにおけるLSUであろう。

「サードステップ:若者に関する政策を包括的に行う官庁の設置」に関して

このステップは、前の2ステップとは少し異なった視点を包含するものである。セカンドステップによる意見集約枠組みが構築された後に、「子どもの貧困」や「奨学金問題」といった若者が直接的に関わる事柄に関して、行政側が”包括的に”対応出来る受け皿を整備すべきである。

勿論、セカンドステップで構築された枠組みが、既存の官庁に対して機能することも十分に想定している。一方で、若者を取り巻く諸問題の要因が、余りにも複雑化・分野横断化している状況を考えれば、「若者」に関わる各種施策を一元的に管轄する官庁の存在も検討してよいのではないだろうか。

「同時並行:主権者教育よりも更に広い概念の『シティズンシップ教育』の推進」に関して

2015年6月の改正公職選挙法成立を受け、総務省が中心となって主権者教育を開始し、今日では現在多くの高校で実施されている。しかし、その起こりが「18歳選挙権」であったことからも、「選挙教育」という側面を拭い去ることが出来ていない印象もある。

前段・前々段のステップが施策ありきで終わらない様にする為にも、「意見表明」や「批判的思考」、「他者との対話」と言った視点をより重視した様なシティズンシップ教育の推進は、継続的に行われる必要があることは言うまでも無いだろう。

選挙改革等の議論は、「若者政策」として行うべきではない

これまで3つのステップに関して考察を重ねてきたが、意図的に「供託金引き下げ」や「インターネット投票」といった政策には触れていない。これらの政策は若者にとっても大きな影響を与えるが、同時に選挙制度そのものにも大きな影響を与えうる。だからこそ、「今後の日本における選挙の在り方」という大局的見地に立って議論されるべき事柄であり、単なる「若者政策」として議論されるべきトピックでない、と筆者は考えている。

単なる”提言機関”となっては「若者が舐められる」

先日のコラムでも述べた通り、若者政策推進議員連盟の発足そのものは、非常に喜ばしいものである。一方で、議員連盟から発出される提言が、単なる部分最適化された政策の羅列であっては、実際には影響力を持つことは無いだろう。そしてその場合には、その実行性の無さといったから、「若者が舐められる」ことすら容易に想像できる。

従って、若者政策推進議員連盟、もしくはそれに関わる若者達が、一定の方向性を共有し、その方向性に従って、個別の政策を段階別に組み立てていくことが必要になる。そして、その結果として、実行性をもった「若者政策」が生まれることとなるだろう。今回発足した若者政策推進議員連盟が単なる提言機関に留まるか、留まらないか。その結果が、今後の日本における「若者政策」の命運を決すると言っても、決して過言ではないはずだ。個別具体の政策のみを語らず、若者政策を「日本社会」にどの様に位置づけるか、その議論こそが若者政策に携わる全ての者に課されている課題ではないだろうか。

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