シティズンシップ教育研究大会2019に参加・研究構想発表

登壇・発表等

8月26日に大阪国際大学(大阪・守口市)で開催された「シティズンシップ教育研究大会」に参加し、ランチセッションに於いて研究構想発表を行いました。同大会は、日本シティズンシップ教育フォーラム(J-CEF)が『「研究」に力点を置いた新たな交流と研究発展に向けた場』として、今年度に初めて開催されたものです。

「シティズンシップ教育」は、純粋に教育学のみならず、政治学や社会学、言語学など多様な学問の見識が必要とされる、まさに学際的な領域とされます。また、純粋に理論研究のみならず、政策研究や実践も欠かすことの出来ないものと言うことが出来ます。様々な登壇者のお話を拝聴していても、拠って立つ学問によって「シティズンシップ」の意味付けは大きく異なることは明白です。また、理論研究が先行している部分、実践が先行している部分があることは否めません。そして、先進的な実践事例や理論研究を現実社会へと還元させることを目的とした政策立案が行われるケースも少なくありません。だからこそ、今回の研究大会の様な多様な背景を持つ方々が集い、議論を欠かす場は非常に貴重であると感じております。

筆者(栗本)は、『参画拠点としての生徒会活動-シティズンシップ教育・若者の政治参画の新しい形とは-』を題に研究構想発表を行いました。この研究構想そのものは以前からイメージしているものですが、特に政策への昇華を意識しながら、研究に取り組んでいくことができればと考えています。

参画拠点としての生徒会活動・発表要旨

はじめにー生徒会活動の概観―

日本では、太平洋戦争以前から、旧制中学などにおいて「校友会」組織が存在し、限定的ながらも中等教育学校においては自治的活動が展開されていた。大戦期を通して、その活動は瓦解したものの、戦後には連合国軍総司令部によって校友会をはじめとする自治的活動は復活した。しかし、直後の“逆コース”等の政治的要請を受け、「生徒会活動」として学習指導要領で定められる教育課程となり、学園紛争期には相応の混乱も経験した。それでも尚、今日においても系譜そのものは引き継がれている。

一連の流れを経て、その内実は少なからず変化したとしても過言ではない。特に’70年代後半以降は、生徒会活動は総体として自治的活動としての側面が弱まり、学習指導要領で言うところの「特別活動」としての側面を強めることになる。生徒会役員選挙・生徒総会の未実施、あるいは生徒会予算編成/執行権の形骸化(停止)等が常態化する、あるいは教員の強力な指導を不可欠とするなど、その自治性は時間の経過と共に薄れていった。この自治性の減退と“下げ止まり”は、今日にも続く流れであるとの指摘は有効であろう。

「社会」との接続を試みる動きー生徒会の学校外活動ー

戦後、一定の地域内に存在する生徒会によって構成される連合組織が出現した。特に、学園紛争期直前には様々な地域で連合組織が出現したものの、特定のイデオロギーを強力に推進する組織へと変質し、連合組織を事実上禁止する通達が文部省から発出された。結果、前述の連合組織は実質的な解散へ至った。

それから暫くの間は、生徒会が積極的に学校外活動を展開することはなかった。ただ、‘90年代に生徒会役員を務める高校生が自主的に運営する組織が形成され始め、2000年代以降には“生徒会連盟”と称する組織が関東・関西圏を中心に出現する様になった。特に2013年に、各地の“生徒会連盟”の運営を担っていた高校生によって全国高校生徒会大会が開催されて以降は、更に多くの地域で“生徒会連盟”が出現した。

この様に、国内における生徒会の学校外活動は、1960年代と2010年代に一定の興隆を見せたと言って良いだろう。ただ、前者が組織として何らかの主張を積極的に展開していた一方で、後者はネットワーキングと情報共有・交換に重きを置いた活動を展開するなど、双方の活動の主目的は大きく異なる。

「新しい生徒会」―主権者教育と政治家教育の結節点としての参画拠点―

2015年の公職選挙法改正以降、主権者意識と政治的教養の涵養を主たる目的とする主権者教育への関心が見られる様になった。総務省・文部科学省は副教材を作成した他、多くのNPO等の民間組織も主権者教育に参画している。ただ、選挙直前の啓発や、投票に関する知識の伝搬に留まる事例が多くを占め、「主権者意識の涵養」という主目的を達成する段階には必ずしも至っていない。

発表者(栗本)は、主権者意識とは、単に政治的教養を獲得すること、あるいは「体験する(お飾り参画)」ことだけで、涵養されるものではないと考える。主権者としての経験を積むことで段階的に主権者としての意識が育まれ、結果として投票・立候補などの政治的行為が自発的に行われるという一連の流れを意識した主権者教育を実現する必要があるのではなかろうか。こうした問題意識に基づいて、発表者は「参画拠点としての生徒会活動」を提唱したい。

前述の通り、自治性をほぼ喪失した既存の生徒会活動ではあるが、学習指導要領に定められる教育課程の一つであることは変わらず、国内のほぼ全ての高校に存在するという特徴を持つ。従って、既存の生徒会活動の枠組みを活用したモデルを構築することは、全国の高校に敷衍することを容易にする。

「参画拠点としての生徒会活動」モデルは、既存の生徒会活動の枠組みを維持した上で、生徒会活動を通して地域社会への参画を試みるものである。同時に、教育的な観点から、学校運営への参画を企図し、生徒会活動を、地域社会と学校運営の双方へ参画する「窓」として機能させることを検討したい。

引き続きご指導、ご鞭撻を賜りますと、大変幸いです。

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